03オレンジ色の意味

「成瀬君って教えるの、上手いよね。すぐに上達できそう」

「俺が教えるのが上手くてもなあ……」

「えー? 何それ、私が飲み込み悪いみたいな言い方」

「ん、違うのか?」


 三日月とは帰る方向が同じらしく、駅まで一緒に向かうことになった。
 俺は電車通学で、三日月は徒歩なんだけど、駅ビルに用事があるらしい。


「ねえ、まだ付き合ってくれる?」

「は? 何言ってんの、泳げるようになるまでは練習付き合ってやるよ」

「うん……ありがとう」


 急に何を言い出すかと思えば、そんなことか。


 それっきり、俺たちは何かを話すわけでもなく、黙々と歩を進めるだけで、あっという間に駅に到着する。


「じゃあ、また明日」

「うん。とりあえず、今日はありがとう」

「ん。気をつけて帰ろよ」

「うん、じゃあね」


 電工掲示板を見ると、もうすぐ電車がホーム入りする時間だったから、俺は急いでホームに向かった。


 階段を上りきると、ちょうど電車のドアが開いて飛び乗ると、空いていた席に座って一息吐く。


 それからは正面に見える、オレンジの湘南が流れていくのを眺める。


 三日月、いい体してたよな……。


 全く、ホントに損な役を引き受けてしまったモンだ。
 せっかく美人が無防備に練習してるのに、迂闊に手を出すこともできない。
 これだから、いつまでもチェリーから抜け出せなかった要因なんだろう。


 最近、綾菜先生ともしてないから、余計に欲に飢えている。


 あーあ、彼女が欲しい……。
 童貞を卒業したなら、やはり次は相手が欲しい。
 そう思ったら、車内に響きそうな、自分でも驚くほどに大きなため息を吐き出していた。

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