第一話 一頁
窓辺に置かれた椅子に座って、白と黒の千鳥柄の膝掛けを掛けて外を見る。
そうしてどれくらい時間がたったのか。
何だかいつもより寒くなったように感じてそっと息を吐いてみた。
白い息がふわっと出てすぐに消える。
窓の外をもう一度覗いてみれば、さっきまで無かった雪がふわりふわりと舞っていた。
雪が綿のようだと良く言うけれど、確かに今日の雪はその例えが調度良く思う。
何を考えるでもなくただ、空を眺めた。
いつもより暗い、冷たい、鋼鉄のような色の空を。
冷えきった部屋にコンコンと、これもまた冷たい尖った音がした。
『……はい。』
ゆっくりと開かれた扉から見えたのは見慣れた執事だった。
「失礼いたします。お嬢様、ご紹介したい方がおります。」
『中にどうぞ。』
「こちら、武装探偵社の太宰治さんと中島敦さんでございます。今日より美桜お嬢様の護衛をして頂きます。」
『そう。分かったわ。もう下がっていいわよ。』
執事は無言で軽く頭を下げると静かに部屋を去っていった。
私は今紹介されたばかりの私の護衛だと言う彼等を見た。
へらへらとした笑顔を浮かべる彼、太宰治という人物は何故か腕や首に包帯を巻いていて、笑顔の裏にどんな感情があるのか察しが付かない。
第一印象だけでは、というより、長く一緒にいても彼を理解出来るようには思えなかった。
もう一人、中島敦という彼には緊張が丸見えだ。
身体を固めてしまって、きちんと息が出来ているのか心配になる程に。
私は窓辺に置いた椅子から立ち上がって彼等に向かい合った。
『初めまして。朝日奈美桜と申します。何故護衛がつくのか、私には分かりかねますが、どうぞよろしくお願いいたします。』
「あ、え、えと、中島、敦、ですっ。よ、よろしく、お願いしま、す」
隣の彼はクスクスと笑いながら中島さんの背中を叩いた。
「敦君、そう固くなるものでは無いよ。その緊張がお嬢さんに移ってしまったらどうする?」
「い、いや、でも。」
「ああ、紹介が遅れたね。私は太宰。私達は武装探偵社の者だよ。 そんなことよりお嬢さん、可憐な貴女にお願いがあるのです。私と、」
つかつかと私の前に歩み寄り、そして私の手を取ると、彼は私の目を見て微笑んだ。
「私と心中して」 「いやいやいや!何また変な事を言ってるんですか!? あ、この人の事は気にしないで下さいね。」
「あはは、いつもの敦君に戻ったじゃないか。」
『えっと、ふふっ。面白い方々ですね。』
「あ。」
「敦君、私が先に声を掛けたのだよ?」
彼等の掛け合いに思わず笑ってしまった事を、失礼な事をしてしまったのでは無いかと少し焦ったけれど、どうやら大丈夫らしい。
「べ、別に!下心とか持ってませんからね!太宰さんみたいに!」
「おっと、私はお嬢さんのお相手をしなければ。」
太宰さんは私の方へ向き直ると、部屋の中心辺りにある養父(ちち)が私の為にと買ってくれた丸いティーテーブルまで私の手を引いて歩いた。
そこにあった椅子を軽く引いて、私に座るように促す。
窓際にあったデスク用の椅子を持ってくると、そこには中島さんを座らせて、彼は私と同じ形の椅子に腰掛けた。
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