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ねぇ、好きだよ。

そんな言葉一つで一気に恋に落ちてしまうこの時代はどうかしてるんだと思う。

単に私がそんなものに興味がないのか、この時代が私に合っていないのか、

そんなことは分からない。

なんと言っても結花はうまれてこのかた、恋をしたことが一度もない。

好きな人も好きな芸能人も、誰一人いない。

周りにどんどん置いて行かれて、正直焦ったこともある。

告白されて、好きじゃないけど試しに、なんてこともあったけれど、結局一週間も続かなかった。


もう、どうでもいいんだ、けれど、一度でいいから本気の恋をしてみたい。


そんな彼女の人生に大きな衝撃を与えるほどの出会いがあるのは、もうすぐである。









「結花!」


後ろから大きな声で呼ばれ、びっくりして振り返るとそこには呆れ顔の友人が居た。

 
「全く、ぼーっとしてんじゃ無いわよ。」

「あぁ、ごめんごめん。」


怒られても呑気な結花を見てはぁ、と溜息をついて早足で歩いていく友人。結花はその後ろをはぐれ無いようについて行った。

今日は私たちにとって楽しみにしていた日。

高校の修学旅行で京都にきた私たちは、早速自由行動で、いろんな所を観光していた。

その中でも私が一番楽しみにしていたところがここ、新選組資料館だ。

マニアまでとはいかないが、ちょっぴり新選組ファンである私にとって、これ以上に心が弾むものはない。


のに、だ。


なぜか今日は気持ちが浮かない。風邪でも引いちゃったのかな…。

だるい、というわけではないんだけど。

何かこう、頭の中が冴えない様な…ぐるぐると渦をまいた何かが離れない。

せっかく念願の場所に来たんだ。こんなことじゃあ、楽しめるものも楽しめないよね。

結花はふるふると頭を振ると、それを隠すように笑顔をかぶせて歩いていった。









それから数十分たっただろうか、まだあの変な感覚は抜けないが、(私にとって)魅力的な物のおかげで少しはマシ、と言ったところだろうか。

何をとっても素晴らしい。しかし、そんな数々の有名な品の中に、ひときわ私の目を引くものがあった。


「見て見て!これって鬼の副長とまで言われたあの土方歳三の使ってた愛刀だってよ!」


興奮気味で私に話しかける友人の気持ちも分かる。私も思わず感嘆の声を漏らす。


幾年の時を経てもなお鈍色の光を放ち続けるその刀。結花はその刀が放つ圧倒的なオーラに息を飲んだ



その時だった。



「……っ」


キィン、と私の頭の中を何かが通り過ぎた。何?この感覚…。

私…、誰かに呼ばれてる……!

そう思ってるうちにも頭を砕きそうな痛みに耐えられず、結花はその場に倒れ込んだ。


「結花!どうしたの!?結花!」


必死に私の名を呼ぶ友人の声だんだん小さくなって、私の意識そこで途切れた_____。








意識が戻った私の眼前には、幕末を思わせる街の風景。

和服を身に纏い、さっそうと私の横を通り過ぎていく人たち。


そして、女である私が袴を着て、腰には刀が刺さっている。


何が、どうなったの?


あの時、確かに私は資料館の中にいた筈なのに。

それなのになぜこんな所に、しかもこんな格好で立っているんだろう。

友達のいたずら?…いや、それにしては手が込んでいるし、何よりその友人の姿がどこにも見当たらない。

頭が空っぽになってしまった結花は、もう一つ、不思議なことに気づいた。


この辺りがどこなのか、地名やらなにやらの基本的な知識が頭の中に入っている、ということ。


「もう、何がなんだかさっぱり…。」


とりあえず歩き回れば何か思い出すかも知れない。

友達のいたずらという可能性も捨てきれないし…。

まずはどこから当たろうか、辺りをきょろきょろと見回すと、どこからか結花の名前を呼ぶ声が聞こえた。


やっといたずらのネタばらしかな?


おもいっきり怒ってやろうと思った結花は勢い良く後ろを振り向いた。


けれど、それは友人でも、ましてや知り合いでもなかった。


「どうしたの?結花ちゃん、何かあった?」


一人の男性が私の顔をのぞき込む。

びっくりした結花は足元の石につまずいて尻餅をついた。

なんで?どうして私はこの人の名前を知っているんだろう?そして、なぜ私の目の前にいるはずのない新選組がいるのだろうか。

そもそもこの人たちが新選組であることがすぐに分かったのもなぜ?

あまりの動揺に立ち上がることを忘れた私は、彼を見上げたままの体勢でいた。


「お、沖田さん…。」

「ん?何かな?」

「……………」


話しかけても返事をしない私を不思議そうに沖田さんが見ている。いきなりで吃驚して、言葉がうまく出てこない。


「あの、私、なんにも覚えてなくて…。」

「僕の名前は分かるのに?」

「…はい。」


それを聞いた沖田さんはうーん、と唸った。私はどうなってしまうのだろう…。

こんな時代のことだから不審者みたいな私なんて斬り殺されてしまうのかな。

すると沖田さんは私をもう一度じっと見てから、くるっと後ろを向いて、大きな声で向こう側にいる人たちを呼んだ。



「土方さーん、ちょっと来てくださいよ、結花ちゃんが変なんです。」



彼が呼ぶと、浅葱色の隊服を着た新選組の一人がこっちに近づいてきた。

転んだままの私に驚きもせず彼はそのまま真っ直ぐに私の方を見つめる。

そうだ、この人は____



「土方さん……?」



名前が分ってしまう自分が少し怖かった。初対面だというのに初めて会った気がしない。

結花は転んだまま立ち上がることを忘れて彼を見つめた。いや、見とれた、というべきか。

私を見下ろす彼の深い紫の瞳…。

このままじっと見ていたら吸い込まれそうな気がして。




__とっても綺麗な人…。




舞い上がった桜が二人の出会いを告げた。








薄桜鬼、長編連載スタートでございます。

肝心の土方さんがちょっとしか出てきて無いけどね。

っていうか新選組資料館なんてあるのかな?

まだ薄桜鬼好きになってからちょっとしか経ってないのでキャラ個性が出ないかも知れないけど、

どうぞ宜しくお願いします!


それでは、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます☆