Stage1「プレゼントお断り!?」クニさん「え〜明日から夏休みということでー」
広い講堂に、どこか呑気な声が響き渡る。
ここ、麻布にある藍川学園では、全校生徒が集められ1学期の終業式が行われていた。
隣に並ぶ同じクラスの勇太くんがコソッと耳打ちする。
勇太「クニさんってさ、ただの用務員のはずなのに、なんでこういう時いつも締めに挨拶するんだろうね?」
楓子「ね、私もずっと不思議に思ってた」
勇太「うちの学校って、なんかそういう不思議があるよね。姿の見えない理事長とかさ」
楓子「校内アナウンスで声を聞いたことはあるけど、誰も姿を見たことないんだよね……」
クニさん「ほらそこ〜おしゃべりするなよ〜」
勇太・楓子「わっ、はい!」
壇上から注意され、慌てて姿勢を正す。
クニさん「まあ夏休みだから、気持ちがウキウキするのもわからなくないけども――」
(夏休み、かあ……)
話に耳を傾けながら、ぼんやりと考える。
(夏休み、あんまり嬉しくないなあ。だって……)
講堂の前方、先生たちが並ぶ列に目を移す。
(あっ……鴻上先生、あくびしてる……)
クラスの担任である鴻上先生を見つけ、その姿を見つめる。
今日も赤いネクタイが似合ってて、寝坊したのか、頭の後ろにはちょっとだけ寝癖がついてる。
あくびをこらえるような、ギュッと口を結んだまま目を閉じた顔がなんだかかわいくて、思わず口元がにやけた。
すると、目を開けた先生が、フッとこちらを向いた。
(あ……)
大和「……」
(…えっ?)
目が合った瞬間、先生が少しだけ笑った気がして、胸がドキッと音を立てる。
(いま…私に笑った…?)
クニさん「高校生の夏は人生で一度きりしかない!」
勢いのいい声が響き、ハッと視線を前方に戻す。
勇太「えー? 高校は3年間あるから、一度きりじゃなくて、3回あるよね?」
楓子「そうだね…?」
生徒たちがざわざわとする。
クニさん「あ〜、そうかもしれない。しかし、つまりだ、高校生の夏というのは、人生において貴重だってことが言いたい!」
クニさんがこぶしを作って熱弁する。
クニさん「だからみんな、夏を思いっきり楽しむんだぞ〜!」
生徒「はーい」
明るい返事を聞いて、クニさんが満足そうに笑う。
夏休みに期待を膨らませる生徒たちのなかで、私は小さくため息をついた。
(…私は楽しめない。だって、夏休みになったら……鴻上先生に会えなくなるから)
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