鴻上先生に手を引かれたまま、階段を駆け上がる。


ガチャッ!


息を弾ませ、辿り着いたのは屋上だった。



大和「ハア…、逃げ切ったか……」
楓子「……はい!」

肩で息をする先生の横で、ぐるりと屋上を見渡す。


(この時間だからもう誰もいない……ということは、今度こそ…!)



楓子「先生!」


息を整え振り向いた先生に、プレゼントの包みを差し出す。


楓子「これ、お誕生日プレゼント……!」
大和「え……」


(やっと……ここまで来れた…)


楓子「受け取れないって、先生言ってたけど、どうしても渡したくて……」
大和「……」
楓子「でもダメだったらダメって言ってくれて―」

言葉の途中で、スッと、私の手から包みが離れる。

大和「……サンキュ」
楓子「…受け取ってくれるんですか?」
大和「うん、つーか、ぶっちゃけ……ちょっと期待してた」
楓子「えっ?」


驚く私に、先生が照れくさそうに口を開く。


大和「ほら、去年すげぇ美味いクッキーもらったから、今年も何かくれるかなーって思ってたし。あとなんか……今日ちょこちょこ目が合うし」


(目が合ったりするの……先生も気付いてくれてたの?)


大和「…開けていい?」
楓子「はい…」


先生がガサガサと包みを開ける。
中身を見て、途端に顔を輝かせた。


大和「お! クッキー!」
楓子「…先生、去年喜んでくれてたから、同じ味のクッキー作ったんです。でも今年は何個か、アイシングにも挑戦してみて…」
大和「あーなんか可愛いの混ざってんな」


先生がニコニコしながらクッキーの袋を眺める。


大和「ん、もう1個なんか入ってる」
楓子「それは……ハンカチ。あんまり、残るものじゃないほうがいいかなって思ってたんだけど…」
大和「……」
楓子「先生に似合う色のハンカチ見つけちゃって、プレゼントしたいなって思っちゃって…」
大和「…うん」
楓子「…良かったら、使ってください」
大和「うん、使うよ」


そう言って先生が笑う。
その顔がすごく優しくて、胸がいっぱいになる。



(……言わなくちゃ、いちばん、伝えたいこと……)


自分の手を、ぎゅっと握りしめた。



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