ShootingStar-12
「やっぱり何かあると思ったのよね〜」
昼食の後は授業がないなまえとエミリアは、中庭の木陰に腰を下ろしていた。
昨夜から晴れ渡った空は淡い青が広がっていて、いつもよりも暖かい日だった。
「だってあの授業の後からずっと様子がおかしかったじゃない、なまえは顔に出やすいから」
ニィッとわらってエミリアはおでこをつついてきた。
「ごめんね。心配させたくなかったから、解決するまで黙ってようと思って・・・」
「そんなに気を使わなくてもいいのに。友達甲斐がないじゃない?」
エミリアは少し首をかしげて寂しそうな顔をする。
「そうよね・・・ありがとう」
「でもうらやましいなぁ〜だってあのシリウス・ブラックだよ?噂になるんじゃない?」
「う〜ん、やっぱりそうかなぁ・・・」
「いろいろ大変かもねぇ」
「分かってるよ・・・でも頑張るから」
真剣に頷くなまえを微笑ましい顔で見ていたが、急にエミリアの表情が変わった。
「あ、噂をすればね・・・」
なまえの肩越しに何かを見ている。
その目線を追って振り返ると、シリウスが温室の向こうからこちらに向かって歩いて来ていた。
「邪魔ならあっちにいってるけど?」
「いいよ、ここにいて」
「はいはい」
日差しをよけて、影で少し髪を撫で下ろしてから、なまえはシリウスに向かって微笑んだ。
シリウスもそれに気がついて微笑みながら近づいてくる。
「なまえ達は空き時間?」
「うん、シリウスは?」
「まぁそんな感じ・・・」
何だか決まりが悪そうな表情をしながらなまえ達のいる木陰に入ってきた。
草のすれる音を立ててなまえの隣に座る。
「あのさ・・・今日の晩飯一緒に食べないか?」
少し照れくさそうに視線をそらしながら聞いてきたので、なまえも恥ずかしくなって同じそぶりをしてしまった。
「いいよ、でも最後の授業は教室が違うから、先に大広間で待っていてくれる?」
「うんわかった」
シリウスは前に重心をかけながら勢い良く立ち上がった。
「それじゃな」
「うん、後でね」
シリウスはまた来た道を戻って傾斜を降りていった。
その背中を目で追っていたら、後ろからエミリアの押し殺した様な笑い声が聞こえてくる。
「ハハ、ただそれを伝えに来ただけ?」
「みたい・・・だね」
「あっはっは、かわいい〜あのシリウスがだよ?!」
「だね」
「しかも授業をサボってまで・・・」
エミリアは身体を震わせて声が出ないほど笑っている。
「え?そうだっけ?」
「そうだよ。確か今は古代ルーン文字の授業があってるでしょ?シリウスはそれとってたよ」
「そうだったんだ・・・」
なまえも一緒になって笑い出した。
「本当に大好きなんだよ、なまえの事が。いいなぁ幸せ者!」
「痛いよエミリア;」
おもいっきりこづつかれた腕を摩りながらもなまえは嬉しさに微笑んだ。
大広間に入ると、シリウスたちが席を取ってくれていた。
なまえとエミリアが並んで座ると、自然にシリウスがなまえの隣に席を取る。
今夜も各寮の長テーブルの上には美味しそうな料理が並んでいた。
「あっ、ミートパイがある!僕好きなんだぁ♪」
ピーターが待ちきれないという顔でテーブルの上を眺め下ろしていて、その後ろから一目も気にせずベタベタした二人が近づいてきた。
「シリウス、今日アレ貸してくれない?」
シリウスの目の前に座ったジェームズが、こぶしを二つ前に出して合図をした。
なまえにはそれが何の合図なのか直ぐに分かった。
「あ〜・・・今日はダメだ」
「え?何でだよ。昨日も乗ったんだろ?」
ジェームズがチラリと見てきたのでなまえは顔が熱くなりそうだ。
「毎日乗ってるの?」
誤魔化そうとしてシリウスに聞くと
「毎日じゃないよ。今日みたいに明日授業がない日とかに・・・」
「あと、悩み事があるときとかねー」
少し遠くに座ったリーマスが食事を中断して声をかけてきたので、
シリウスは“余計なことを言うな”と言わんばかりの表情で彼を見る。
「今日も星が綺麗かな?」
「明日も晴れるみたいだから綺麗だと思うよ。なまえも来る?」
周辺に座っている一同が一瞬動きを止めてなまえの反応を伺ってきたので、なまえは戸惑いながら頷いた。
「じゃあまた同じ時間に迎えに行くから」
「うん、わかった」
「明後日は貸してくれよシリウスー、じゃなきゃ透明マント貸さないよ?」
「わかったよ、明後日は貸してやるから」
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「ねぇねぇ、アレ。シリウスたちじゃない?」
「ん?ああ、そうだね」
人気のない談話室で、窓辺に立っていたリリーがジェームズを手招きしながら呼んだ。
月が無い、星の散りばめられた夜空を、白い光が突っ切って飛んでいくのがチラリと見えた。
「ホントに好きだよねぇ〜」
「なまえもバイクもね・・・そういえば私、最近ずっと乗ってないんだけど?」
フンとした調子でジェームズを見上げるリリー。
「仕方ないんだよ。シリウスが全然触らしてもくれないんだから・・・」
その肩にポンと手を乗せて首を振るジェームズ。
「透明マントは?」
「いらないってさ」
「・・・・・」
「毎週お馴染みの無言の見解になってるからね」
後ろからリーマスも顔を出した。
「仕方ないわねぇ〜」
呆れ交じりの三人の視線を浴びながら、冷たい夜空を星のように二人は流れていた。
足元の湖にも星空が広がり、その水面にも一定の速さで白い光が反射している。
まるで流れ星みたいだと思う。
月のない星だけの真っ暗な夜空でも、怖いものなんて何もない。
なまえの両手はいつでもしっかりとシリウスと結ばれていて・・・
身体にはエンジンの音と一緒にシリウスの鼓動が流れてくるから
・・・・・・End・・・
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