ShootingStar-08



時計の針が12時をまわった。

談話室に残っているのはなまえとエミリアだけだ。

あの後マダムポンフリーにお礼を言って談話室に戻った後、エミリアに今日の授業で習ったところを教えてもらっていた。

「ふぁぁ〜」

エミリアが大きなあくびをする。

「もうそろそろ寝ない?明日も授業があるし」

「そうね。今日はありがと」

なまえは羽ペンのインクをふき取った。

通りすがりに男子寮へ通じる階段の方をチラリと見たが、誰もいないようだった。

シリウスにお礼が言いたくて、談話室にいる間行き来する人を注意して見ていたが、それらしい人は通らなかったので、結局何も言わずじまいだった。

エミリアがそっと寝室のドアを開けた。

古びた音が当たりに響いて、廊下の明かりが中に差し込む。

二人は直ぐに寝巻きに着替えた。

「それじゃあおやすみ」

エミリアが眠そうな顔をしてカーテンから顔を出したので、なまえはもう一度お礼を言っておやすみをした。

エミリアはすぐに眠りについたらしい。

しかしなまえはどうしても寝付けず何度も寝返りをうっていた。

今日は一日中眠っていたのでまったく眠くない。
このまま起きていたら、また明日の朝同じようなことにならないかと心配だった。

なまえはふと昨日の晩の事を思い出し、むくりと起き上がって静かに窓辺に歩いていった。

窓の外を見上げると、昨日ほどではないが星が綺麗だった。

しかし今日は上の方に雲がある。

月明かりに照らされている雲をしばらく目で追っていたが、途中でやめてベッドに戻ろうと体の向きを変えた。

その時、窓の外をまばゆいほどに輝く何かが、うなるような音を立てて通り過ぎていった。

背を向けていたのでそれを見たわけではないが、一瞬部屋中が黄色に照らされて、なまえの大きな影が壁に映し出されたからだ。

即座に振り返ったがそこにはただ星空があるだけで、何事もなかったかの様に静かだった。


なまえは窓の外に身を乗り出してみた。

まだかすかに虫の羽音のように何かが聞こえる。

風で髪の毛が舞い上がる。

音はだんだん小さくなっていった。

床に足を着いて髪の毛を直していたら、北の空から流れ星のようなものがすごい速さで上昇していくのに気付いた。

雲の中に隠れたかと思ったら今度は東の空から現れて急ターンする。


なまえはそれを瞬きもせずにじっと見ていた。

何なのだろう?流れ星じゃないことは確かだ。

そしてそれはホグワーツから飛び出したらしかった。

なまえは窓の手すりに手を置いたまま、寝室のドアを振り返った。


どうしよう、何なのか確かめたい・・・

でもフィルチに見つかったら・・・

しばらく顔を上げたり下げたりしていたが、ベッドの脇にあるガウンを掴むと、羽織りながら寝室のドアまで歩いていった。

手を当てて耳を澄ましてみる。

ドアの外には誰もいないようだ。

なまえはどうやって一番高い塔まで行くかを必死で考えた。

なまえは1年生の時に一度だけ夜中に寝室を抜け出したことがある。
だがそのときはエミリアも一緒だった。

その時エミリアは、フィルチは1時間ごとの奇数の時間帯に見回りをしていると言っていた。
今はどうなのだろう?
もう4年も前の話だし、その話自体本当かどうかも分からない。

だが今は2時をまわったところだ。
本当なら今しかない・・・

なまえはゆっくりとドアを押した。

廊下の明かりはもう消えていて、ひんやりとしてとても薄気味悪い。

誰もいないようなので、なまえは足音を忍ばせて外に出てみた。
ドアが閉まると同時にガウンを頭からかぶって身をかがめて歩き出す。

フィルチがいきなり廊下の角から現れないか、角につきあたるごとにしゃがみこんで聞き耳を立てた。

自分が何でここまでしてあの光の正体を知りたいのか、なまえ自身よくわからなかった。

何故だか不思議と胸が高鳴る気がする。


ただ塔の上だけを目指した。





*******************

古びた金属音がして、冷たい風が入ってきた。

なまえはまず頭だけを出して辺りをきょろきょろ見渡した後、一歩踏み出し扉を閉めた。

一連の作業が終わった後で思いっきり深呼吸をした。

今まで息を凝らして暗い廊下をしのび歩いてきたのだ。
まるでスパイにでもなったような気分だった。

そんなに格好のよいものでもなかったが・・・

息を吐くと同時に空を見上げた。

寝室の狭い窓から見上げるよりもずっと綺麗で、星が近く感じる。
今日の夜空に雲が一つもなかったらどんなによかっただろう。

見上げた真上に、ひときわ輝く星があった。

それを見るだけで“シリウス”という言葉が自分の頭に真っ先に浮かぶのがおかしくてなまえは小さく笑った。


その時、遠くからまたかすかにあの音が聞こえてきた。
なまえは、塔の陰に隠れ、身を潜める。

東の空からまっすぐこちらの方へ飛んでくるものがあった。

それは流れ星のような発光体で、近づくにつれて白から黄色へと変わっていく・・・

うなるような音がだんだん大きくなる。

なまえはあまりの眩しさに目を覆った。

風が波紋のように足をつたう。


瞼を透かすものは無くなり、なまえはゆっくりと目を開けた。

まだかすかにうなるような音が聞こえるが、だんだんおさまってきている。

月明かりに何かのシルエットが見えた。


さっきの光の残像が目に焼きついていてよく見えない。

なまえは何度も瞬きをした。

人影のような気がする・・・
それとよく分からないが、何かの動物のようなものが見える・・・


「誰だ?」


目に全神経を集中していたので、その声を聞いてなまえは飛び上がりそうだった。

だがどこかで聞いたことがある声のような・・・

その人影はどんどんなまえに近づいてくる。
先生ならどうしよう、このまま扉を開けて逃げようか・・・

そんなことを考えているうちに左腕をつかまれた。


「?!・・・あれ、なまえ?」


そばで聞いてやっと分かった。


「!、シリウスなの?!」


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