Destination-11



「課題は全部終わったのか?」

「ううん・・・まだなの。何で課題が出てる事知ってるの?」


階段が半回転して二人の足元で固定された。
ガタンという大きな音と一緒に振動が足を伝わってくる。

もういい加減に慣れてきてもいい頃なのだが、未だに動く階段が苦手だと感じる。


「今朝なまえと同じ6年生が大広間で愚痴ってたよ“宿題のレポートが2つ重なった”って」

目元にかかった前髪を軽くなびかせて、シリウスはひょいっと階段に飛び乗る。
なまえも階段の継ぎ目につまづかない様に慎重に続いた。

「昨日も頑張ったんだけど終わらなかったの。徹夜はあんまりしたくないんだけどね…」

「手伝おうか?」

「ううん、自分でしなきゃ意味ないから…ありがとう」


必ず断られると言う自信があったが、シリウスはあえて尋ねてみた。


理由は、自分でやると言って断るなまえの反応が観たかったから。
思った通りの反応につい笑いそうになったが、それはあまりにも不謹慎だ。



そういうことなら出来るだけ早く彼女を談話室に帰してあげないと。

自分に出来る事は他に無いか考えながら階段を一段一段上がっていく。








談話室に近づくにつれて、中の賑やか過ぎる活気が嫌というほど伝わってきた。

太ったレディの肖像画を越えて中に入ると、談話室の様子は酷いものだ。
机という机は6年生が陣取り、皆眉間にシワを寄せてレポートに奮闘している。

しかし床という床では他学年の寮生が座り込み、チェスをしたりボードゲームをしたりと各々で楽しんでいた。

そういえば明日はグリフィンドール対レイブンクローのクィディッチの試合がある。
この試合の結果で、今年の寮対抗クィディッチ杯はどちらかに勝機が別れるのだ。

皆話題はそればかり、気の早い寮生は今から応援用のマフラーを巻いている始末。

無理もないだろう、なまえもレポートさえなければこの話題に笑顔で参加している。



なまえとシリウスが二人並んで中に入ってきたので、何人かの生徒はチラリと視線を預けてきた。
それに気付かない振りをしてエミリアを探す。


「なまえ!」

暖炉よりも奥にある窓際の席でエミリアが手招きをしていた。
なまえの席も残してくれている。

「それじゃ、また後でね」

なまえは振り返ってシリウスを見上げた。
シリウスも笑顔で相槌を返す。



席に着くとエミリアがこれ以上無いほど最高の笑顔で出迎えてくれた。

「どうやら悪い方向へは進まなかったみたいね」

「うん、ありがとう」

「いろいろ聴きたいところだけど、今はそれどころじゃないのよねぇ・・・」

ため息混じりに羊皮紙を羽ペンでつつく。

「私、鞄をとって来る」

なまえは床に溢れるお菓子の山や寮生の足をよけながら女子寮の階段へと急いだ。









必要なものを詰め込んだ鞄を持って談話室に戻ると、部屋の様子は一転していた。

さっきまで床に溢れて騒いでいた他学年の寮生の姿は無く。
唯一残っている者達もレポートに取り組む6年生に混じり、皆静かに読書をしている。
時々女子生徒のクスクス笑いが聞こえる意外は、羽ペンの音と本のページをめくる音だけだ。


いったい何事かときょろきょろしながら椅子に座るなまえを、エミリアが上目使いでチラリと見てきた。
書き間違えて破った羊皮紙の紙切れに何かを書いて、なまえにそれを渡してくる。

内容を一瞥して、なまえは暖炉の傍の肘掛け椅子に座っている魔法悪戯仕掛け人達をチラリと見てみた。

手紙によると、なまえが女子寮に戻っている間に騒がしい寮生を彼らが一掃したらしい。
どこからともなくやってきて、4人で寮生をそれぞれの寝室に追い払ったそうだ。

おかげで6年生はさっきよりもずっと集中してレポートに励んでいる。
なまえは正直驚いたが、助かった事に変わりは無い。
エミリアは笑いたくて仕方が無いという表情だった。

もう一度暖炉の方に目をやると、ちょうどジェームズと視線が合った。
彼は軽くウインクして、視線でシリウスの方を合図している。


どうやらシリウスが言い出したことらしい。
二人のやり取りに気がついたリーマスもにっこり笑ってこちらを見た。



なまえも微笑みながら軽く会釈をすると、気合を入れて教科書のページをめくり始めた。






*****************************



「なまえ、ちょっとつきあってよ」

空にうっすらと三日月が浮ぶ夜、エミリアに連れられて同じ6年生のパティの前へと連れて来られた。
談話室の一番隅の席で、一つの机を挟んで4つのイスが向かい合って置かれている。

パティは占い学が得意で、栗色の巻き毛のおっとりとした女の子だ。
ホグズミードを一緒にまわった事もある。

「ごきげんよう、なまえ」

「あ、うん。ごきげんよう」

向かい合って座った3人の間には、濃い紫色のビロードが敷かれていた。

今から何が始まるのやらと少し不安ななまえを差し置いて、エミリアはパティに何かを促している。

「なまえ、今からルーン占いをしましょうね」

ゆっくりとした調子でパティが言うと、ひざの上から同じようなビロードの巾着を取り出した。

「え?」

「なまえ、何か悩んでる事は無いの?」

相変わらずゆっくりとした調子だが、瞳だけはギンと此方に向けて話すパティ。

「ううん、特に無いけど」

「そっか、じゃあシリウス先輩となまえの仲について、お願いパティ」

「じゃあって、エミリア・・・」

いいからいいからと宥められて、彼女の占いは始まった。

「それじゃあ、まずは心を真っ白にして、その後に占いたい事だけを考えてね・・・」

言われたとおりに目を瞑って静かに取り組むなまえ。


「今から3つの石を引いてもらいます。現在の状況に至った、その過程を思い出しながら1つ目を引いてね」

なまえは言われた通りに意識を集中させながら巾着に手を入れて、一つ目の石を選んだ。

「次は今の現状について考えながら2つ目を引いてください…じゃあ最後に、これからどんな風に展開されていくのか、それをイメージしながら最後の石を引いてね」



「はい、終わり。じゃあ今からこれらのルーンについて考察してみます」

パティはなまえが選んだ石を左から順に並べた。


「1つ目のルーンは、イス。このルーンは静寂、遅延、犠牲。準備の時を表すルーンです。どっちかっていうと冬のイメージね。

2目のルーンは、アンサズ。
このルーンは智恵、言葉、使者、メッセージ…すでに貴方の周りに答えが在ることを意味してるの。

3つ目のルーンは、ケーナズ
これは・・・・」

「開放・理解・想像力・・・」

「そのとおり、元々松明を意味するケーナズは1つ目のイスとは逆の火のイメージね。これは新しい気付きや悟りを表すの。

既にあなたの周りにいる何かの存在が影響して、寒い冬を乗り切る炎になる。
それが貴方を守ってくれて、今まで気付かなかった何かに気付かせてくれる。

どう?身に覚えある?」

小さくこくりと頷くなまえ。

「それじゃあ最後にもう一個引いてもらおうかな」

パティはもう一度巾着の口を広げてなまえの前に差し出した。

「明確な答えが欲しい時は、もう一個引いていいのよ」

なまえはもう一度巾着の中に手を入れてみる。

「あ、やっぱり!」

嬉しそうに微笑みながら、パティはなまえの選んだ石を並べた。

「最後のルーンはベルカナ。成長、発展、誕生を表すの。全体的に春のイメージね」



「・・・信じてもいいってことじゃないの?」

さっきまで黙って傍観していたエミリアがフフっとやさしく微笑んだ。



「うん、そうだね」












『あのメッセージの最後のルーン。他にまだ意味があるんだ』




あの新月の夜、談話室に向かう廊下を歩きながらシリウスが呟いた言葉。


例のメッセージを解いて、あの目的地へたどり着いたつもりだったが。
なまえの答えに対して、シリウスは満足のいった様子では無かったことを思い出した。



「ケーナズって『火』を表すけど、広い解釈で所有に近い意味も含めるんだ」

「所有?」




「火は寒い冬を乗り越えるために必ず必要なもので、その反面全てを奪う事もできる力を持っている」



隣を歩くシリウスの目に、壁に並んだ松明の赤い光が映っている。




「なまえの全てを手に入れたい、だからどんな時も傍にいて守りたいんだ」


立ち止まってなまえの方を振り向いたシリウスは、少し照れているような表情でにこっと笑った。



『その“決意”のルーンだよ』




・・・・・・End・・・


←Prev Back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -