Destination-03



次の朝、朝食を食べるためにエミリアと二人で大広間に降りていた。
昨晩は早めに寝たので、今日はいつもよりも起きるのが早かった。
まだほとんどの生徒が自室で身支度をしている時間帯なので、石畳の廊下は静まりかえっている。

「ねぇなまえ。ちょっと魔法史の教室に寄ってもいい?」

エミリアの申し出で少し遠回りをして教室のある階を通る事にした。

今日は丸一日教科書が多い科目ばかりだ。
朝から全部の本を持って移動していたらかなり疲れる。
なので午後に授業がある魔法史の異常に厚い教科書を、先に机の中に入れておきたいそうだ。
なまえもその提案には賛成で快く同意した。

「アロホモラ!」

閉まっていた鍵を開けて中に入ると、古い家具の臭いが鼻にツンとくる。

「よいしょ、これで少しは軽くなったわね」

「エミリア、インクの瓶や羽ペンも入れちゃったら他の授業はどうするの?」

「残りが少しだから、新しい方も予備で持ち歩いてたのよ。どうせ魔法史はノートをほとんどとらないし、新しい方のインクを他の授業で使うわ」

そう言ってエミリアは残りが本当に少ないインクの瓶と羽ペン一本を机の中に押し込んだ。



*****************************


大広間に着いた頃には、約半分の生徒が席を埋めていた。
入り口に近い端の方の席を選んでエミリアとおしゃべりを始める。
先週グリフィンドールとハッフルパフのクィディッチの試合が開かれた。
その際のジェームズ・ポッターの活躍は見事なものだったので、今のグリフィンドールでは彼の話題で持ちきりなのだ。


会話に夢中になっていたところ、不意に後ろから聞こえた声になまえは思わずギクリとした。

「ジェームズ、此処に座ろうぜ」

後ろを振り向きたくないが、目の前のエミリアの目の輝きで確信がつく。

「隣、いいか?」

案の定聞こえてきたシリウスの声と台詞に頭痛がしそうだ。

「あ、はい」

思い切って振り向くと、かなり爽やかに笑顔を返された。

なるほど、エミリア含む沢山の女子達が落とされるわけだ。
確かに好印象が持てそうな気がする。

それからエミリアの話すそぶりが微妙に変わったことに気付きながらも出来るだけ意識しないように努めた。


しばらくすると、テーブルの上においしそうな料理が一斉に並んだ。
噂通り、今日は大好きなアップルパイがある。
大好きなものは最後にとっておきたいので、なまえは先に別のものを食べながら今日の変身術のテストについて話していた。




「ちょっとピーター。それぐらいにしておきなさいよ」

リリーの声で顔を上げると、大皿に沢山並んでいたはずのアップルパイがいつの間にか一つだけになっている。
そしてその最後の一つさえも、目の前のピーターと呼ばれた少年の口の中に一瞬にして消えた。

なまえは慌てて他の大皿にも目をやったが、そちらの残りも少なかった。

声には出さないが、思わず「あぁ〜あ」と言う表情をしてしまう。
隣で気付いたエミリアが同情の顔で此方を見ている。


「なまえ、これやるよ」

隣からの呼びかけにびくっと振り向くと、シリウスは自分の皿にのっているアップルパイをなまえの方に差し出している。
いきなり名前で呼ばれたことと差し出されたもの。

どちらに驚けばいいのかわからない。


「あ、ありがとうございます。でも・・・」

「俺はいいから。ほら、遠慮するなよ」


「・・・・・・」

「食べたそうな顔してるけど?」

「え、あ・・・」

耐えられなくなって俯いたが、たぶん顔が赤くなっているだろう。

「はは、遠慮するなって」

皿を持っている手とは逆の手で、口元を軽く隠しながらククッと笑う。


なまえは余計赤くなりそうで更に訳がわからなくなってくる。


「早く受け取らなきゃ俺が食べさせるぞ」

「遠慮しないで受け取った方がいいよ〜シリウスなら本当にやりかねないから」

斜め左のジェームズの一言で周りに笑いが起こる。

「じゃあ、いただきます」

なまえはシリウスからアップルパイののった皿を受け取った。
シリウスにもらったからといっても、やはり嬉しい気持ちは確かだ。


「美味しい?」
隣に座っている彼は頬杖をついてなまえが食べている姿を眺めている。

「はい、お陰様で・・・」

「よかった」

機嫌良さそうにまた笑うと、シリウスは自分のかぼちゃージュースを口に運んだ。


なまえは静かにアップルパイを食べながら小首をかしげる。

彼は何を思って自分に分けてくれたんだろう。

いつも一緒にいるような派手な女の子にも同じ事をしているのか。

シリウス・ブラックという人間が何を考えているのかますます解らなくなった。


その後のエミリアの反応は言うまでも無い。





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昨日と同じような空気に包まれて、魔法史の教室はまた魔法にかけられたようだ。
周りは既に打ち落とされた生徒であふれている。

だけどなまえはバッチリ目が冴えていた。
またいつものようにビンズ先生の口から出たものを欠かさずメモしている。

なまえはふと思い出して羊皮紙をずらした。
あの落書きのことを思い出したのだ。

まだあるかどうか確かめるぐらいの気持ちで探していたが。
見つけて少し驚いた。

前の落書きは綺麗に消えて、代わりに別の言葉がまたルーン文字の応用で書かれていた。

『ありがとう。君は凄いね』

なまえはその文を何度か読み直してみる。

まわりの様子を伺いながら、また羽ペンの先をサラサラと動かし始めた。



『どう致しまして、もし良かったらあなたの名前を教えてください』


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