Destination-02



「皆さん、彼女はなまえ・みょうじさんです。名前ぐらいなら聞いたことがある人もいると思いますが、彼女は先日行われた学年末試験で優秀な成績を修めました」

教卓の前に先生と一緒に立たされ、代わりに自己紹介をされた。

「今日は特別に皆さんと一緒に授業をしていいという許可が下りました」

先生に背中をポンと叩かれたので、なまえは慌てて挨拶をする。
目の前には顔も知らないような生徒がいっぱいで、しかも皆なまえに視線を集めている。

なんともいえないような圧力を体中に感じながらも、なまえはできるだけ真っ直ぐ視線を上げた。

「なまえ・みょうじといいます。今日は先輩方の授業に精一杯ついていけるように頑張るので、よろしくお願いします」

それだけ言い終るとペコリと頭を下げる。
次に顔を上げると同時に、暖かい拍手が起きた。
まだ皆半信半疑でなまえを見ているが、それでも少しは安心する。

「それではミス.みょうじは真ん中の一番後ろの席に座りなさい」

先生に促されて教室の奥に進む。
いつも授業で使っている教室なのに、周りにいる人が違うだけでこんなにも違和感を感じるのだろうか?

「よろしくね」

席に座ろうとしていたら、前の席に座っていたリーマスが柔らかい笑顔で声をかけてきた。
なまえも笑顔を返す。
傍から見たら解らなかっただろうが、心臓が縦に動いて口から飛び出すかと思った。


そうだ、この授業にはリーマスがいるんだった。
昨晩はその事を考えて眠れないほどだったのに、教室に入ったとたん独特な空気と圧力の所為で頭からかき消されてしまっていた。
どんなにこの時を夢見たことだろう。

普通ならありえないようなことが起こっている。
学年が一つ上のリーマスと一緒に授業を受けているのだ。
目の前のリーマスは、姿勢良く椅子に座っていて、色素の薄い髪はやわらかそうな猫毛だ。

なまえはこの席を与えてくれた先生に感謝の念でいっぱいだった。
もしリーマスの隣や前なら彼が気になってとても集中できないし、斜めからだと見ていることを誰かに気付かれるかもしれない。

なまえにとって後ろが一番ベストなのだ。
教科書を取り出して羽ペンにインクを染込ませていたら、その様子を確認した先生が授業を始めた。




「なぁ、ちょっといいか?」

上級生の雰囲気に慣れてきた頃に、急に隣に座っている生徒が話しかけてきた。

今まで前にいるリーマスにばかり気をとられていたが、そういえば隣は誰だっけ?

リーマスの右には、名前は知らないけどいつもリーマスと一緒にいる背の低いおとなしそうな男子生徒。
左にはグリフィンドールの名チェイサー、ジェームズ・ポッター。
そしてその彼の後ろ。

つまりなまえの左に座っている生徒は・・・



目が合った瞬間喉が詰まった。

声の主はシリウス・ブラック。
彼の噂は友達から嫌って言うほど聞かされている。

「この問題が良く解らないんだよ。お前解る?」

何だかなまえを食い入るような感じで見ている。
もしかしたらさっきリーマスを見ていた自分に気付いているかもしれない。

嫌々ながらも椅子を動かしてシリウスの指先にある問題を覗き込んだ。
なるほど、かなり難しい問題だ。
自分でも解くことが出来るだろうか・・・

左手でサラサラ落ちてくる横髪をかきあげた。
頭の中には今まで読んだルーン文字の本のページがフィルムのように流れていく。


しばらく問題に引き込まれて何度も何度も文を読み直していた。


ふと視線を上げる。

何故か教科書の問題ではなくなまえを見ていたシリウスとバチっと目が合った。
なまえは慌てて視線を問題に戻すが、シリウスは身じろぎもせずに視界外でまだこちらを見ている。
さっきのなまえの反応を楽しんでいるようだ。


---何なのこの人・・・

シリウスが気になって問題に集中できなくなる。

「なまえ・みょうじ」

急に別のところから名前を呼ばれて少し驚いた。

顔を上げると教卓の前で先生がこちらを見ている。
というより、教室中の生徒がこちらを見ている。

「この問題を解いてください」

なまえは「はい」と返事をして黒板の前まで歩いていった。

先生はなまえにちょうど良い問題を選んでくれたようだ。
さっきシリウスに訊かれた問題よりもずっと容易い。

解答は無事正解で、先生も満足そうに笑っていた。


席に戻ると、シリウスが待ってましたとばかりに笑顔で出迎えた。
手の様に振っていた羽ペンの先で、さっきの問題のページをトントン叩いている。

今の時点でも難しくて良く解らない。
途中で諦めてもいいのかもしれないが、それでは何だか納得がいかないのでまたその問題に挑み始めた。



*
*
*



「多分これで良いと思います」

なまえは羽ペンを羊皮紙から離して早々と椅子を元の場所に戻す。

「あぁ、サンキュー。お前やっぱ凄いんだな」

シリウスはなまえが解いた答えを感心して読み直している。

「ルーン文字が得意?」

「えっと・・・はい」

「へぇーこれも解る?」

今度はシリウスが椅子を引いてなまえの傍に肘をつく。

---え・・・また?

なまえは唖然としたが仕方なく教科書を受け取った。
エミリアからシリウスは頭がいいと聞いた事があるはずだけど。
それに何で一つ年下の自分に訊いてくるんだろう。
傍に座っている友達に聞けばいいじゃない。

その授業中はずっと傍らからシリウスが離れず、なまえはリーマスと話も出来なかった。
授業が終わっても、次の授業が占い学で教室が遠いので、何時までも此処でもたもたしていられない。

なまえは渋々教室を出て行った。




                                     「ねぇ〜なまえー」


シリウスは何を考えているのかわからない。


得体が知れない。



                        「なまえってば聞いてるの?」



急に背中に振動がきて、なまえは我にかえった。

「何?また考え事?」

いつの間にか談話室の前まで来ていた。

「大丈夫?」

「うん、大丈夫。ありがとう」

目の前の太ったレディも不審そうな顔でこちらを見ている。

「あのさ、なまえ。今朝監督生が新しい合言葉を言ってたよね?何だっけ、私忘れちゃって・・・」

そういえば新しい合言葉は何だっただろう?
前に本で読んだ事があるような単語だった気がする。


「ファーブニル!」

後ろから声が聞こえて、2人は思わず振り返った。
なまえの目線の高さで最初に目に入ったのはグリフィンドールのエンブレム付きのローブ。

直ぐ斜め後ろにシリウス・ブラックが立っていた。

「図書室で読んでいなかったか?“ニーベルンゲン”」

彼独特の自信たっぷりの笑顔で笑いかけている。


自分の背中越しに肖像画が開く音が聞こえた。


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