彼を追い越し、
目の前でピタリと止まる

達也もそれにつられて、キョトンっと目を丸くしながら足を止める


「どうしたの…?」

「トリックオアトリート」

「えっ!?」


不思議そうに首を傾げている達也に、俺はくるりっとハットを手に取り、お辞儀しながら…彼にハットを差し出した

当の本人は一瞬反応が遅れて
ハットと俺を交互に見る



「僕、今お菓子持ってないよ」



にんまり笑っていた俺を見て
達也は両手を上げて、肩を竦めながら苦笑いした



「じゃあ、悪戯しちゃうぞー」

「わわっ…!?」


それを聞いて更に俺はにんまり。
すぐに靡かせていたジャケットの端を手繰り寄せたまま、達也との距離を縮める。

観念した達也を俺の体で抱き締め
そのままバサッとジャケットと共に達也を包み込む



「ちょっと…!マトリクス!
人前でこんな…っ、」


その瞬間、徐々に達也の声に焦りが出て体温の熱さが俺の体に伝わってくる

身を捩り、逃れようともがく達也の体を離さないように腰に手を回し、ギュウッと更に抱き締める



「1…、2…、」

「ー…っ」



達也の耳で囁くのはカウントダウン。

びくりと耳に息が触れて
揺れた達也の肩に「このままかぶり付きてぇな…」っという気持ちを殺し

カウントダウンが3になる



「3!!」

「…ーもう!何をして…!?」

「スッゴーイ!!」

「えっ!?」


バッと素早く達也から
ジャケットを翻し、離れれば

達也はしかめっ面で
俺に声を上げようとすれば
代わりに周りの人が声を上げた


途端、パチパチと周りから拍手がされて何が何だか判らずに辺りを見渡す達也に

俺は不敵に笑って、ちょんちょんっと達也の服を指差した



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