寒がり


シャンクス率いる赤髪海賊団一行が目指す島は冬島。航海士が言うには、今朝から冬島の海域に入ったとのことで、外はすっかり冷たくなり、大雪だった。人一倍寒がりであるお名前は朝食から戻ると、予め部屋に用意しておいたストーブに張り付いている。


「お名前。」

「うん。」

そう返事はしたものの、お名前はストーブの前で身を縮こませ、シャンクスの方を見向きもしない。

シャンクスからしてみると、正直お名前がこのような状態でいることはおもしろくなかったし、こんなにもお名前から必要とされるその物体にさえ嫉妬心を覚えていた。


「お名前。」

「なあに?」

「寒いのは分かるが、ずっと部屋にこもっているのも良くないだろう。もうじき昼飯も出来る頃だ。食堂に行こう。」

「うん。」


あまり気分の乗らない返事をするお名前。冬島の気候にある間、1日中お名前がストーブに噛り付いている様子を想像するだけでシャンクスは気が遠くなった。だがしかし、「構ってくれ。」なんて、大の大人が年下のお名前に言えるはずもなく、どうやってお名前の気を自分に引こうかと悩んでいたのだった。


朝から頭を悩ませていたにも関わらず、これと言った良い考えは浮かばない。そんな自分に痺れを切らし、シャンクスはストーブに手を伸ばしてスイッチをオフにした。


「あっ!」

みるみるうちに熱を失っていくストーブをお名前が少し悲しげに見つめてから、シャンクスを見上げた。


「もーシャンクス。何で消しちゃうの?」

「いや…悪かったなぁ。」


ようやくお名前と目が合う。
バツの悪いシャンクスは自分は何て大人気ない男なのだろうと、赤い髪をクシャっと掻いた。


「もー、また寒くなってきた。」


そう言って、お名前がしゃがみ込んだままシャンクスに手を伸ばす。
シャンクスはその手を掴むと、優しく腕を引き上げた。立ち上がったお名前の身体をそっと自分に抱き寄せ、思わず冷たい背中をさする。



「女の子が身体を冷やすことは良くねェな。」


「もー、シャンクスがストーブ消したんじゃん。」


そう言ってお名前がくすくすと笑い声を上げ、シャンクスの胸板に頬を寄せる。


「ね、シャンクス。」

「何だ?」

「シャンクス、寂しかったとか?」

「…ん?」


お名前が顔を上げようとすると、シャンクスは大きな手でお名前の頭を再び自分の胸に押し当てた。


「も ー、シャンクスってば。」


鋭いところを突いてくるお名前。
シャンクスは大きく深呼吸をし、お名前を抱きしめる腕に力を込めた。


「シャンクス。」

「まだ寒いか?」

「うん。」

「そうか。」

「だからもうちょっとこうしてて。」

「ああ。」


そう言ってお名前がシャンクスの背中に細い腕を回す。


「ね、シャンクス。」

「ん?」

「やっぱりストーブはヤソップにあげようかな。」

「なぜだ?」

「だってシャンクスにくっついてる方がずっと嬉しい。」

「ハハハハッ!」

随分と単純な奴だ。と、シャンクスが笑い声を上げる。だがそれは自分も同じ。



「シャンクス温かい。」

「そりゃあ良かった。」




それから2人は、船員が昼食を知らせに部屋を訪れるまで、抱き合ったまま離れることはなかった。







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