小説 | ナノ




‖星空

「やっぱり夜になると涼しいわ」

あたしはドアを開け外に出る。
頭上に輝く星空は
まるで宝石の様で。
月の光を浴びるその姿はまるで女神の化身の様。
少し歩くと誰かが草むらの上で寝そべっている。
あたしはもしやと思い恐る恐る声を掛ける。

「ルーン?」

もう少し近付いてみた。
「ルーンでしょう?」

黒髪の少年はゆっくりとあたしに顔を向ける。

「フィリエル」
その拍子に眼鏡がずり落ちたのか指で縁に触れる。
その仕草が子どもの頃と変わらないのでつい笑ってしまった。

「天文台から出てくるなんて珍しいわね。
どうしたの?」

彼は仏頂面で答えた。

「…星を見ていた。」
「星?」

あたしはルーンの隣に座り込む。

「天文台からも見えるのに?」

「…博士から気晴らしに見ておいでと言われたんだ」

「どうして?」

ルーンは少し考えて答えた。
「分からない」
「…そう。」

冷たい風が頬に触れる。あたしもルーンの真似をして寝そべってみた。

「…綺麗ね。
どこを見回しても星がきらきら光ってる」

何万でも
何億でも
世界を覆い尽くす
光の粒。

「…フィリエル」
急に彼はあたしの名前を呼ぶと,星空に指を向ける。

「見てごらん。
星が流れるよ。」

暗闇に浮かぶ
小さい光の粒が
一つだけ
音も立てずに
優しく
ゆっくりと
涙の滴の様に
地上へと
落ちていった。

その光景は
あまりにも綺麗で
あたしは瞬きするのも忘れていた。



「…あたしたち幸運ね」

やっと口を開けた。

「昔,博士から聞いたことあるの。流れ星は願い事を叶えてくれるものだって。
でも,願い事を言うの忘れてたわ
…ルーンは何かお願い事した?」

あたしは隣にいるルーンに顔を向けて聞いた。

「…ルーン?」

黒髪の少年は目をつぶったまま何も答えない。

「寝ちゃったの?」

あたしは上半身を起こし彼の前髪に触れようと手を伸ばした。

「…内緒」

彼が目を開け小さく呟いた。

「えっ。」
あたしは驚き声を上げてしまった。

「…寝てなかったの?」

彼はくすりと笑うとゆっくり立ち上がった。

あたしはただ呆然とし,服についた泥を払いのける彼の姿を見つめていた。
すると,あたしに声を掛けた。

「…君も戻るかい?」
「えっ。」
「ぼくは用事が終わったから帰るよ。
フィリエルはまだここにいるのかい?」
「用事って」

彼はにこりと笑う。

「願い事だよ
博士はぼくに願い事を言うよう外に出したんだ。」
「そうなの?」

ルーンは少し考えて答えた。
「…多分」

「…少し肌寒くなったからあたしも戻ろうかしら。」

あたしは勢いよく立ち上がり,服の裾についた泥を素早く払い落とすと勢いよくルーンの側に寄った。

「…ねえ,ルーン」
「何」
「何を願ったか教えてよ」
「だから内緒だって」

黒髪の少年は眼鏡の縁に触れながら答える。

「…気になるわ。」
「それでも内緒だよ」

あたしは少し残念がりちらりと夜空を見上げた。

「あっ」

その時,また小さい金色の粒が一つ流れ落ちた。

「…みんなと一緒にいれますように」

今度はきちんと願い事を言えた。
少しだけ心が温かくなった。
そしてルーンの方に顔を向けて囁いた。

「これからもずっと一緒にいようね」



草がさらさらと音を奏でる。
その音はまるで水の様に透明で綺麗な音。
いつまでも聞いていたいと想った。



「…うん」
彼がぽつりと呟いた。
頬が少しだけ赤みを帯びている。

あたしはそんなルーンの姿を見てくすくすと笑った。
いつもは仏頂面をしている彼なのに少しだけ少年らしい一面を見れたからだ。

「早く家に入ろうね」

あたしは彼の手を握りしめた。
ルーンの手は温かく
とても心地が良かった。



いつまでも
聞いていたい草の音。
いつまでも
見ていたい金の粒。
どれもが愛おしいセラフィード…。



†ルーンとフィリエル†



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