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‖甕

がっちゃん

「いたっ」

手に持っていた甕が粉々に割れ
中に入っていた水が地面を容赦なく濡らす

「もう…」
あの人のせいよ
あの人が余計なことをわたくしに言うから
こんな災難に見舞われるのよ…

赤毛のあの人…

「もう…
どうしてあの人の事が頭から離れられないのよ」
目頭が熱くなる…

「いた…い」
立ち上がろうとしても何故か力が入らない
「ふ…う」
涙が容赦なく頬を濡らす

「…菅流の馬鹿」

かさっ

「誰が馬鹿だって?」
突如現れたのは…
「力ないくせに甕一杯に水入れるからだよ
何時転ぶか冷や冷やしていたら…案の定だよ」

「あなた
見ていたの…?」
「手を貸そうかと声を掛けても
知らん顔してたじゃないか」
「…」
黙っていると彼はしゃがみ込み
わたくしに背中を向ける
「ほら」
「な…何よ?」
「おぶってやるよ
早く来い」

何を言ってるのこの人は…
「…いらない」
彼はふっと笑う
「素直におなりよ」
「いらないったらいらない!!」

「象子」
「もう、何であなたはいつもいつも
わたくしの邪魔ばかりするの?わたくしもう…どうすれば良いか分からず考えているのに何で何で…」
「…象子」
彼はわたくしの前に立ち寄ると優しく頬を撫でるごつごつしたその手は何処か温かく感じる

「…象子」

「一生懸命あなたの事を忘れようと必死だったのに…
どうしてあなたはわたくしを追い掛けるの?どうしてそんなにわたくしに言い寄るの?わたくしは貴方のこと…」

…きらい

「象子?」
「ふう…う」
息が詰まって言葉が出ない

「…」

何故か分からないけれど
…何かがその言葉を押し殺そうとしている

「象子」

ふいに彼がわたくしを包み込む
優しくてでも何処か力強い…彼の鼓動がとくんとくんと鳴り響く…

「泣きたい時には思いっきりお泣き
でもさ、誰かに心の内を明ける勇気も必要だと思うんだ
…そんな時はさ
おれに頼ってくれ
君がおれの事嫌いでも良いから
おれに頼ってよ…
こんなにも小さい身体でこれ以上抱え込んでいたら
…君は倒れてしまうよ」

「う…う…」

「こんな君を放っておけないよ…」

彼の言葉はわたくしの心を落ち着かせてくれる…
心地良いと
正直に想った


要約気付いた…
何故彼の顔が離れないのか…
何故嫌いという言葉が出ないのか…

それは
彼を
想い始めているから…

†菅流と象子†



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