小説 | ナノ




‖波音

ざざ…
ざざあ…

波の音が聞こえる。

わたしの手首には勾玉を連ね
その手には
―短剣。
刃が光る。

この短剣は
ある人を殺めるための物…
ざざ…
ざざあ…

「遠子」
その声は



「遠子だね」



小倶那の人形をした
小碓皇子…


「あなたに逢いに来たの」

殺めるために来たの。

あの日
あなたは
わたしの家族を
故郷を

滅ぼした人


だから

だから…

何故眼が濡れるのか
何故こんなにも胸が痛むのか

わたしには分からない
分かりたくない…

ざざ…
ざざあ…

「小倶那…」



「目をつぶってはだめだよ、遠子」

鮮血

ぽたっ

「小倶…知って…」

「遠子」


涙が止まらない。

手に連ねた勾玉が


「遠子」

無い…

「どうして…」

どうして愛しいと想う
どうして胸が痛む
どうして
どうして…


どうして
あの無邪気な幼い頃のままでいれなかったのだろう…



「好き」
あなたが好き…

あなたの真っ白な衣は血に染まり

わたしの視界は
暗くなる…

ただ
あなたに逢いたかっただけなの…
ただ
顔を見たかっただけなの…


小碓皇子を殺めて
小倶那を
救いたかったの…




†遠子†



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