秘密会議 (コイルを仲間にする直前の話)
赤髪の少年は悩んでいた。
小さな森を進んでいた二人だったが、小夜が休憩しようと言い出し、木陰にレジャーシートを敷いていた。
だが小夜はポケモンたちとボール遊びをしていた。
ネットのないバレーボールを楽しむ小夜たちの笑い声が聴こえる。
全く休憩になっていない。
休憩どころか運動だ。
小夜の体力には限界がないのだろうか。
一方のシルバーはというと、レジャーシートに腰掛けており、その隣にはエーフィがいる。
エーフィはポケモンたちがドッジボールやバレーボールをしていても参加しない事が多く、普段からこうやってシルバーと傍観している。
エーフィの視線はシルバーの読んでいる週刊ポケモン雑誌に集中していた。
エーフィがとある部分を前脚で差し、問い掛けるようにして鳴いた。
“これは如何?”
――これで貴方も寝坊知らず!
アラーム音はバクオングの騒ぐ≠セ!
「煩過ぎるだろ。」
それにバクオングの大きな口の中にアナログの時計画面が埋め込まれているデザインを、シンプル好きな小夜が気に入るとは思えない。
シルバーとエーフィが見ているのは目覚まし時計の通販のページだった。
最も近いフレンドリーショップを指定し、其処に配達して貰うシステムだ。
現在シルバーとエーフィの間に行われているのは、毎朝寝呆ける小夜を如何にか簡単に起こせないかと討論する秘密会議だった。
目の前に遊び耽る本人がいる為、秘密か如何かは疑問だが。
その本人はすっきり起きる時もあるが、起きない時はしつこい程に起きない。
更に起きてもへらへらして寝惚ける。
エーフィが六年間小夜を起こし続けていたのかと思うと、シルバーは尊敬の念を覚えた。
ふと目に入った商品を指差す。
「これは?」
――朝の目覚めを爽快に!
アラーム音はサザンドラの嘶きだ!
デジタルの時計画面の上に小さなサザンドラが顔を出しているその目覚まし時計を見て、エーフィは不満そうな顔で首を横に振った。
“朝からそんなの聴きたくない。”
シルバーはポケモンの言葉を理解出来ないが、何となく意味は分かっていた。
サザンドラの鳴き声ならドラゴンタイプが弱点であるボーマンダが飛び起きそうだ。
ボーマンダは何時も鼻提灯を膨らませて何とも間抜けに眠っているが、小夜程起こすのは大変ではないし、自分で起きる時もある。
「誰か目覚ましビンタでも覚えないのか?」
“ニューラとか覚えないの?”
エーフィは頑張ってニューラの鳴き声を真似してみる。
だがシルバーは頭に疑問符を浮かべている。
やはり伝わらなかったようだ。
「いや、待て。
駄目だ、あいつを殴るなんて…。」
あの恐ろしく端整な顔をポケモンにべしべしとビンタさせるなど、絶対に許さない。
シルバーは首を勢いよく左右に振り、その様子を見たエーフィは怪しく笑った。
“シルバーは小夜が大好きだなぁ。”
からかわれている気がしたシルバーはエーフィをじろりと見た。
「お前の頭突きで起こせばいいだろ。」
エーフィは寝惚ける小夜を頻繁に頭突いている。
“シルバーが揺さ振って起こしてよ。”
エーフィがシルバーの脚を揺さ振ってみせる。
その意味を理解したシルバーは頬が引き攣った。
「大変なんだぞ。」
“私だって大変なんだから。”
シルバーとエーフィは同時に大きな溜息を吐いた。
シルバーは雑誌をエーフィの前に置き、両手を後頭部に組んで寝転がった。
「寝る。」
“あ、考えるの放棄した!”
「煩い、寝る。」
シルバーはぷいっと顔を背けた。
つんつんするシルバーにむっとしたエーフィは再度目覚まし時計のページに目を向けた。
主人に首ったけのツンデレ少年との昼休憩も悪くない。
エーフィは人知れず穏やかな表情をしたかと思うと、大きな欠伸をした。
2015.1.6
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