間抜け (第4章「予知夢」番外編)

「お前って間抜けだよな。」

気温が最も上がる昼の時間帯。
オーキド庭の芝生の上に腰を下ろしているシルバーは、愛読書であるポケモンバトル上級者編≠片手に淡々と言った。
隣にいるボーマンダは二m近くある身体を仰向けにして大の字に寝転び、日光浴を楽しんでいる。
ドラゴンポケモンともあろうものが、何とも間抜けだ。
ボーマンダはシルバーの小言を全く気にせず、大欠伸を一つ零す。
シルバーは本のとあるページを開いた。
バトルで要注意すべきポケモンリスト、と記載されている。

図鑑No.373
ボーマンダ
ドラゴンポケモン
ドラゴン・飛行タイプ
空を飛ぶ事を願い続けた結果、身体の細胞が変化して翼が生えた。
一度怒ると大暴れし、手が付けられない。
全ての物を爪で引き裂き、空を飛びながら地上の山を炎で焼き尽くす。
攻撃力は物理特殊共に優れており、総合能力はトップクラス。
技の威力にも要注意。

「本来は大暴れするらしいぜ。」

シルバーは思い出してみる。
小夜のボーマンダが怒っても手が付けられない程暴れた事など一度もないし、先ず怒りもしない。
怒る時があるとすれば、朝だ。
ボーマンダは鼻提灯を膨らませながら爆睡していると、なかなか起きない主人に苛付いたエーフィに、ごく稀に物を投げ付けられて起こされる時がある。
心地良い安眠を雑に妨害されると、エーフィに向かって所構わず竜の息吹を繰り出すのだ。
手加減して攻撃するし、エーフィには強靭な結界があるとはいえ、見ているシルバーには心臓に悪い。
だが小夜曰く、小夜の部屋ではたまにある普通の光景らしい。
壊れた部屋を能力で修復するのも慣れっこだと言う。

「小夜にべったりだしな。」

ハテノの森での一件があって以来、ボーマンダは小夜に甘える事が多くなった。
前々から外見に似つかわしくなく甘えん坊だったが、最近になってそれが加速した。

“小夜にべったりの俺が羨ましい?”

ボーマンダはひっくり返ったままシルバーに顔を向け、にまっと笑った。
シルバーは口元を引き攣らせた。
馬鹿にされている気がする。

『ボーマンダー!』

シルバーとボーマンダは凛とした声が叫ぶのを聴いた。
聴こえた方向である上に視線を向けようとするも、時既に遅し。
四階からベランダを蹴った小夜は、仰向けのボーマンダの上に柔らかく抱き着くように降りていた。

“わ、びっくりした!”

『ふふ。』

ボーマンダは長い首を持ち上げて小夜の顔を見ようとするも、首が捻じ曲がってしまいそうで諦めた。
小夜はボーマンダに乗っかったまま脚をぱたぱたと動かし、ボーマンダの喉元を優しく掻いてやる。
するとボーマンダは身体の力を抜き、瞬く間に目を閉じた。

“シルバーが羨ましいって言ってるから、シルバーにも、してあ、げ…。”

ボーマンダはシルバーが疑う程早く寝息を立て始め、幸せそうな顔を浮かべた。
小夜の傍が一番落ち着くのだ。

『じゃあシルバーも喉掻いてあげようか?』

「え。」

小夜はボーマンダを起こさないように音もなくその身体から降りると、シルバーに両手を伸ばす。
そしてシルバーの肩をぐっと押すも、赤面したシルバーに慌てて押し返される。
小夜は楽しそうに笑った。

「断る!」

『羨ましいんでしょう?』

「ボーマンダの奴、何を言いやがった!」

怪力少女小夜に力で勝てる筈がない。
シルバーは縦に入れられていた力を上手く横に流し、バランスを崩した小夜の肩を掴んで芝生に押し付けた。

「見ろ、俺の勝ちだ。」

『んな…!』

勝ち誇った笑みを浮かべていたシルバーだが、一拍子遅れて自分の体勢に気付いた。
小夜を見事に押し倒しているではないか。
自分と同様に赤面している小夜を見つめながら、シルバーの身体は硬直した。

『こ、こ、これが例のあおかん=H』

「断じて違う!

これは不可効力だ!」

シルバーは小夜の上から飛び退いたかと思うと、その勢いで後方に尻餅をついた。
するとそれを見逃さなかった小夜がシルバーに俊敏に抱き着き、転倒したシルバーはのしかかられてしまった。
小夜の髪がシルバーの首元にさらりと落ちる。
全体重で乗っかられている筈なのに、小夜の身体は驚く程軽い。

「結局こうなるのか…。」

シルバーは喉元を掻かれるのかと覚悟を決めたが、小夜がシルバーの肩口に頬を擦り寄せてきた。
可愛らしいその動作にシルバーの胸が擽ったい何かに締め付けられる。
小夜の背にぎゅっと腕を回すと、小夜が頬を染めながら微笑んだ。
オーキド博士や研究員に見られたら如何しようか。
シルバーは心の片隅で焦燥感に駆られながらも、この時間を幸せに思った。
そんな様子を片目で密かに窺っていたボーマンダは、二人が何時までも仲睦まじくいられるようにと願い、今度こそ深い眠りに就いた。



2015.2.13




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