充電 (第4.5章)

「んだよこれ…。」

今朝、シルバーはオーキド博士から資料を渡された。
つい先日、ポケモン学会で発表されたばかりの新しい論文だそうだ。
だがその難度が半端ではない。
訳の分からない化学式が大量に並んでいる。
オーキド博士の研究分野は表向きとしては人間とポケモンの共生≠セ。
だが薬学にも精通しているオーキド博士は、その内容をシルバーにも勉強させている。
それはきっと小夜の成長に不安があるからだろう。
最近のシルバーは薬学の実験の補佐が多い。

現在、シルバーの部屋にある机は参考書で山積みだ。
その狭い隙間で作業を進めている。
ルーズリーフにがりがりと字を書いていたが、混乱してきた。

「あーもう駄目だ!」

衝動的にルーズリーフをぐしゃりと引っ掴み、背後にぽいっと投げた。
だがそれは落下せず、誰かに受け止められた。

『大丈夫?』

「!」

シルバーが目を見開いて振り返ると、手を伸ばせば届く距離に小夜がいた。
小夜はたった今キャッチしたばかりのルーズリーフを広げた。

「小夜、何時の間に…。」

『シルバーにしては珍しく雑な字ね。』

「煩い……それは捨ててくれ。」

『いいの?』

「ああ。」

シルバーの声は気怠そうだ。
小夜は机の隣にあったゴミ箱にルーズリーフを捨てた。
シルバーの文字が書かれている物を捨てるのは、何だか抵抗感があった。

「古代文字の解読は?」

『難しいけど、遣り遂げてみせるよ。』

「本当に解読すれば大事件だな。」

小夜は自信のなさそうに肩を竦めた。
すると、シルバーが立ち上がった。
そして首を傾げる小夜の両肩に手を置き、その端整な顔を覗き込んだ。
小夜の頬は一気に赤くなった。

『如何…したの?』

「充電する。」

シルバーは小夜の顎を掬い、その唇をそっと塞いだ。
怯んだ小夜は少し遅れてから瞳を閉じ、シルバーの背に腕を回した。
砕けそうになる腰を引き寄せられ、頬を撫でられる。
シルバーの手が温かい。
二人は息継ぎのタイミングで角度を変え、触れ合うだけの口付けを繰り返した。
シルバーが唇を離すと、小夜はシルバーの肩口部分の服を緩く握った。

『もっと……もっと。』

「相変わらず我儘だな。」

シルバーが再度唇を奪うと、何かに気付いた小夜に肩を二度揺すられた。
シルバーは如何したのかと眉を寄せたが、口付けを続けた。
強請った癖に止めようとするのは納得がいかない。
小夜も諦めたのか、口付けに応え始めた。
すると、シルバーは小夜とは違う視線を感じた。
はっとして振り向くと、部屋にはいなかった筈のゴーストが其処にいた。
ゴーストは何故か身体が逆さまで、両腕がない。
ガス状の身体は真っ赤になり、今にも沸騰しそうだ。
一方の二人は完全に硬直している。

“こ、これは…そ、その…遊んでたら…。”

ポケモンたちと追い駆けっこをして遊んでいたゴーストは、バランスを崩してしまい、両腕を忘れて壁を擦り抜けてしまった。
目に飛び込んできたのは、二人の情熱的な口付けだった。
小夜は恥ずかしがる顔を隠す為に、シルバーの肩口に顔を埋めた。
その抱き着くような仕草に、シルバーは赤面して慌てた。
この状況を如何打開すればいいのか、全く見当が付かない。

“おおおお邪魔しましたー!!”

叫んだゴーストは猛スピードで壁を擦り抜け、小夜の部屋へと戻っていった。
静まり返った部屋に残った二人は、お互いの目をそっと見た。
そして小夜が笑い出した。

『ふふっ、今のはちょっと恥ずかしかった。』

「よく笑っていられるな…。」

シルバーは額に手を遣り、呑気な小夜に呆れた。
見られる事に抵抗が少ない小夜とは違うのだ。

『ねぇ、続き。』

シルバーは苦笑すると、小夜の頭をくしゃりと撫でた。
むっとしようとした小夜だが、そのまま頬に滑った手にドキッとした。
あっという間に唇を塞がれ、紫水晶のような瞳をそっと閉じた。



2015.11.26




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