深夜の秘密

深夜、マサラタウンの南に位置する海岸。
人が寄り付かない其処に、轟音が響いた。
砂場には直径五mはあるクレーターがあり、その中心には小夜が立っていた。
見上げた先には、メガ進化したボーマンダがいる。
たった今、小夜に狙いを定めて放った火炎放射は、簡単に防御されてしまった。

「……。」

遠巻きにバトルを見守っているシルバーは、腕を組んだまま黙り込んでいた。
その脚元にはエーフィがおり、シルバーを何時でも衝撃から守れるようにと警戒していた。
すると小夜が掌同士を向かい合わせ、構えを取った。
この構えは波導弾かシャドーボールだが、小夜が選択したのは波導弾だった。
ボーマンダは限界まで空気を吸い、大文字を放った。
それは海岸を覆い尽くすような灼熱の火力で、小夜の掌程しかない小さな球体を迎え撃つ。
だが波導弾は大文字を裂くようにすり抜けたかと思うと、大文字が掻き消されてしまった。
威力の衰えない波導弾はボーマンダに狙いを定めている。
ボーマンダは真上にある三日月目掛けて飛行し、波導弾を旋回して回避した。
だが波導弾は意思を持つかのように突如軌道を変え、ボーマンダの背に直撃した。


―――ド…ッ!!


衝撃音と共に大量の粉塵が立ち込め、ボーマンダは砂場に叩き付けられた。
思わず見構えたシルバーだが、衝撃はエーフィの結界に守られた。
大量の砂が目に入ったボーマンダは、必死で顔を震わせたが、全く取れない。
それでも小夜の次の攻撃は待ってはくれないだろう。
ボーマンダは口内に光を吸収した。
攻撃の方向は、微かに感じる大好きな主人の匂いが頼りだ。
それを見たエーフィははっとすると、シルバーの膝を尾で叩いて言った。

“シルバー、走って!!”

「!」

エーフィは結界を張ってシルバーを守りながら、ボーマンダとは逆方向へと走り出した。
岩が密集している砂場まで走ると、シルバーの身長程の高さがある岩の影に身体を滑らせた。
そして、耳を劈くような轟音がした。


―――ドゴォォオォッ!!!


放たれたのは破壊光線だった。
メガ進化したボーマンダの特性はスカイスキン≠セ。
ノーマルタイプの技が飛行タイプとなり、ボーマンダのタイプと一致した攻撃は威力が上がる。
シルバーは岩の裏にしゃがみ込み、胸に飛び込んできたエーフィをぐっと引き寄せた。
砂浜の砂が全て吹き飛ぶのではないかと疑う程の爆風だった。
エーフィの結界がビリビリと音を発し、ダメージを受けていると知らせている。


―――どぼーん!


続いて間抜けな音がした。
ボーマンダが空気を叩き込むように翼を動かし、海へと突っ込んだのだ。
シルバーとエーフィは目を丸くすると、岩の裏から顔を出した。
破壊光線の痕跡は残されておらず、小夜の結界が全て吸収したようだ。
だがボーマンダは何処だろうか。

“ぶはっ!”

答えは海の中だった。
目に入った砂を海水で洗うのは痛かったらしく、顔を顰めている。
ボーマンダが海面から顔と長い首だけを出すと、笑っている小夜がいた。

『上がっておいで。』

“うん。”

ボーマンダはメガ進化前より一回り大きくなった身体で海から上がった。
そしてメガ進化を解き、ふーと息を吐く。
すると、シルバーとエーフィが駆け寄ってきた。
シルバーがすかさずボーマンダに尋ねた。

「怪我は?

相当なダメージだっただろ。」

“平気さ。”

“また負けちゃったね。”

“もう慣れたよ。”

相変わらず小夜に勝てた事は一度もない。
以前、スイクンを含めた二匹で小夜とバトルをしても無駄だった。
小夜はボーマンダの首を摩りながら、大きな怪我がないかを確認した。

『大丈夫そうね。

今日もありがとう。』

“どういたしまして。”

小夜は瞳を光らせて腕を一振りし、砂場のクレーターなどのバトルの痕跡を消した。
そして海岸全体を覆っていた結界を解いた。
オーキド博士から能力の発散を許可されてから早数週間。
年は明け、外の冷え込みも落ち着いてきた。

「帰るぜ。

長く出掛け過ぎるのはよくない。

オーキド博士にも怒られる。」

『そうね。』

無傷の小夜は頷いた。
ボーマンダが翼を下げ、皆が乗れるような体勢を取った。
その背に乗り、短いながらも真夜中の空の旅が始める。
今夜の空は所々に雲が浮かんでいたが、三日月と星の煌めきは確かに其処にあった。




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