深夜の秘密-2

一行はオーキド研究所へ到着し、庭へ降り立った。
其処では夜行性のクロバットとマニューラが、外灯の下で小さな木を世話していた。
マニューラの身長程しかない木の子供は、横に五本並んでいる。
細い幹に小枝と木の葉が所々に見える。
肥料となっている土はふかふかで、赤と茶色の煉瓦に囲われている。
この木は小夜がクリスマスにプレゼントした種が成長したものだ。
二匹はしっかりと面倒を見ているのだ。
ボーマンダの背から降りたシルバーは腰に手を遣り、呆れたように言った。

「まだ起きていたのか。」

『この二匹は夜が好きなのよ。』

二匹は皆の帰宅を喜び、マニューラはニャーと陽気に鳴きながらシルバーに向かって跳んだ。
シルバーは慣れた手付きでそれを受け止め、マニューラを片腕で抱き上げた。
結界を張ったエーフィとバトルをしたボーマンダは大欠伸をした。
だがクロバットとマニューラは本来夜行性のポケモンだ。
体力を顕著に消耗したボーマンダは、今から庭のシャワーホースで小夜に水を掛けて貰う予定だ。
シルバーは手首の黒いポケナビを見た。
オーキド博士からクリスマスに貰ったこのポケナビは健在だ。
一昔前、ポケナビは手首に装着するものではなかったが、これはコンパクトな最新型だ。
そして色違いの白を小夜が装着している。

『先に戻ってて。』

「分かった。

お前ら、行くぜ。」

小夜とボーマンダを残し、シルバーは他のポケモンたちと四階へ上がった。
小夜の部屋の電気は就寝灯に変わっていたが、ポケモンたちは目を覚ましたままだった。
シルバーと三匹が帰ってきた途端に部屋の灯が点き、一気に明るくなった。
電気を点けたのはオーダイルだが、時刻は午前一時だ。
カーペットの上に寝転がっていたバクフーンは起き上がり、心配そうに言った。

“小夜とボーマンダは?”

“庭だよ。”

エーフィがそう答えた。
小夜が出掛けるとなると、バクフーンたちは如何しても心配だった。
シルバーはマニューラをベッドに下ろし、構って欲しそうに真横を飛ぶクロバットの頭をくしゃりと撫でた。
小夜が深夜にバトルをするのは週に二回。
相手をするのはボーマンダだ。
その都度、シルバーとエーフィは監視と言う名のお供をしている。
森と砂浜の境に巨大な結界を張りながらバトルをする小夜は、能力が安定しているように思う。
日常的に能力を無駄に使用するのも減った。
するとシルバーの耳に羽音が聴こえ、ベランダにボーマンダの姿があった。
大きな窓を開けてやると、ボーマンダが部屋に入り込んだ。
シャワー上がりに大きいサイズのバスタオルを首に掛けているが、これはシルバーからクリスマスに貰った物だ。

“小夜が呼んでる。”

ボーマンダが首を曲げ、小夜がいる方向へと鼻先を向けた。

「分かった。

行ってくる。」

シルバーは立ち上がり、皆に見送られながら庭へと向かった。
一階から四階への階段を往復するのも慣れた。
レースのカーテンを開けてからベランダへ出ると、縁側に腰を下ろして夜空を見上げている小夜がいた。

「小夜。」

『シルバー。』

小夜は嬉しそうに振り向くと、シルバーに駆け寄った。
その瞬間、小夜は後頭部に手を回され、深く口付けられた。

『ん、んっ…。』

去年よりも身長の伸びたシルバーは、欲望のまま小夜に口付けた。
時折漏れる小夜の甘い声に煽られる。

「今日は如何する?」

『何時も通りに。』

「いいぜ。」

シルバーは口角を上げると、小夜の膝裏に片手を回して軽々と抱き上げた。
シルバーの首元に腕を回した小夜は、間近で見るシルバーの横顔を見て頬を染めた。
シルバーの横顔は去年よりも大人になった。

「掴まってろよ。」

『うん。』

シルバーは小夜の背を支えていた片手を離し、ガラス窓を開けて部屋の中に入った。
ベランダと隣接しているこの広い部屋は、配達されたばかりの真新しい書籍や、ポケモンたちを観察する為の望遠鏡がある。
まだ開封されていない段ボールには食料品が入っている。
ポケモンたちの怪我に備え、クローゼットには応急処置の為の医療道具が収納されており、主にシルバーが使用している。
ダイニングテーブルも置いてあり、オーキド博士やケンジと四人で談笑する時に使用している。
其処に置いてあった電気のリモコンを小夜が手に取り、ピッと消した。
庭の外灯と月明かりだけがレースのカーテン越しに入ってくる。

「降ろすぜ。」

小夜はストンと降りると、シルバーの肩口に額を押し当てた。
シルバーに頭を撫でられ、胸が高鳴ると同時に安堵する。

『早く。』

「毎回修行の度に飽きない奴だな。」

『でもシルバーだって付き合ってくれてる。』

「まぁな。」

二人は小さく笑い合うと、視線を絡めて口付け合った。
その間にシルバーが小夜の肩をそっと押し、壁に凭れさせた。

「疲れていないか?」

『平気。』

「心配した。」

『心配性。』

小夜はクスクスと笑った。
むっとしたシルバーは小夜の頬に手を滑らせ、掠れ声で言った。

「笑っていられるのも今のうちだぜ。」

今夜も散々啼かせてやる。
シルバーは小夜の首筋に唇を這わせ、その服に手を入れた。

『…ぁ…。』

二人だけの甘い秘密の時間の始まりに、小夜の胸は震えた。




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