深夜の秘密-3

シルバーは日差しの眩しさに目を覚ました。
遠くからポケモンの鳴き声が聴こえる。
何故かマサラタウンに住み着いているドードリオが、朝を告げようと鳴いているのだ。
シルバーが左手首のポケナビを見ると、朝六時だった。
三時間は眠れただろうか。
やはり寝不足だ。
後々、昼寝をしなければ。

「小夜、起きろ。」

『んーやだー。』

広いソファーの上で横になっていた二人は、寄り添い合って眠っていた。
とりあえず、この寝惚けた恋人を連れてシャワーを浴びに四階まで上がらなければ。
シルバーは周辺に服が落下していない事を確認してから、小夜を横抱きにした。
小夜が首元に強く抱き付いてくる為、シルバーの片手は自由だ。
扉を開閉し、四階まで軽々と上がる。
小夜は幸せそうににこにこしながら言った。

『シルバー、抱っこー。』

「…してるだろ。」

週に二回、深夜のバトルが終わった後、お互いに身体を求め合うのが恒例となっている。
情事後はなるべくすぐにシャワーを浴びて部屋に戻るようにしているのだが、あのソファーで眠ってしまう時がある。
ポケモンたちは二人の時間を邪魔しないようにと気遣い、何も言ってこない。
何かと突っ込んでいたエーフィも、以前と比較すればかなり静かになった。

「着いたぜ。」

『もう降ろしちゃうの?』

慎重に降ろしたはいいが、小夜はふらふらしている。
参ったシルバーは小夜が転倒しないようにぎゅっと抱き締めた。
ドキッとして怯んだ小夜は、一瞬にして大人しくなった。
シルバーは抱き締めた延長で小夜のニットのアウターを掴み、引き上げて脱がせた。
小夜は咄嗟に両腕で身体を隠した。

『きゃあ!』

「煩い、早くしろ。

引っ剥がすぞ。」

ぶっきらぼうに言うシルバーの頬は赤くなっている。
未だに寝惚けている小夜とそれに困惑しているシルバーは、それから何かと騒々しかった。
二人は汗を掻いた身体を洗い、髪も洗った。
暫くして、洗面所からドライヤーの音がした。

『ふふ。』

「ったく。」

小夜は拗ね気味のシルバーに髪を乾かして貰っていた。
白くて清潔なドレッサーの前にある椅子に腰を下ろし、丁寧な手付きに心地良さそうに微笑んでいる。

「自分でやれよ。」

『だってシルバーがしてくれるシャンプーとドライヤー、好きなんだもん。』

小夜はシルバーの器用で丁寧な手付きが好きだった。
能天気に頭をゆらゆらと左右に振っていると、シルバーに手をぽんと頭に乗せられた。
言葉とは裏腹に、シルバーの手は優しい。

「じっとしろ。」

『ごめんごめ…。』

突然、小夜の声が不自然に途切れた。
小夜は瞳を大きく見開き、微笑みを消した。
つい先程まで寝惚けてへらへらしていたのが嘘のようだ。
何かを感知したのだろうか、とシルバーに緊張が走る。

「小夜…?」

『行かなきゃ!』

小夜はガタッと立ち上がった。
肩から薄桃色のバスタオルが落下しそうになり、シルバーが反射的に受け止めた。
そうしている間にも、小夜は半乾きの髪で走り出した。

「おい!!」

シルバーはバスタオルを持ったまま、慌てて後を追い掛けた。
ドレッサーの上には二人分のポケナビとキーストーンが置かれたままだ。
小夜は人間離れした猛スピードで階段を駆け降りる。
オーキド研究所の玄関まで到着すると、その場にいたのは…。

『シゲル!』

階段の上から名を呼ぶと、祖父であるオーキド博士と会話していたシゲルが小夜を見つけた。
小夜が初めてこの研究所を旅立った時以来の再会に、シゲルは胸に込み上げるものを感じた。

「小夜…!」

小夜は帰宅したばかりでリュックを背負ったままのシゲルに駆け寄り、飛び掛かるように抱き着いた。
その勢いによろめいたシゲルは、頬を染めながら小夜を抱き締め返した。

『おかえりなさい。』

「それは僕の台詞さ。

おかえり、小夜。」

シゲルの中で止まっていた歯車が、また静かに動き始めた。



2015.9.18




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