不自然

『くしゅん!』

海沿いの大橋を渡りながらトージョウの滝を目指す小夜は、シルバーの隣で可愛らしいくしゃみをした。
丈夫な大橋は随分と長いもので、二人はかれこれ一時間以上もこの上を歩いていた。
昨夜、小夜は手製の風呂を製作してその中に突っ込み、身体をきちんと拭かないままでシルバーから告白を受けた。
そして今朝、目を覚ましてから鼻を啜ってばかりだった。

「もしかして風邪か?」

隣を歩いている赤髪の少年は人生初の告白をしたにも関わらず、特に異変のない振る舞いをしていた。

『そ、そんな事ないもん。』

逆に告白された方の小夜が、口が上手く回らずに吃ってしまったり、ぎこちない行動を取ってしまっていた。
シルバーは小夜の肩に手を置いて立ち止まるように促すと、小夜の前髪を掻き上げて額に手を当てた。

「熱はないみたいだな。」

『っ…ひゃ?!』

温かい手に触れられた小夜は、弾けるように後方へ飛び退いた。
シルバーは眉を寄せた。

「小夜?

如何した?」

『あ…何でもない。』

シルバーがその行動を不審に思う一方で、小夜は先へと速足で進み始めた。
今まで手を繋いだり肩を抱いたりしても、これといって反応しなかったのに。
額に触れられただけで過敏に反応している。
シルバーは背を向ける小夜を追った。

「待てよ。」

シルバーは独りでどんどんと前に進む小夜の手を取ろうとした。
だが一瞬触れたその手は、小夜によって素早く引っ込められてしまった。

『あ…。』

「…。」

シルバーは小夜の透き通った紫の瞳が揺れているのを見つめたまま押し黙った。
真っ直ぐに見つめられる事に堪え兼ねた小夜は、瞳を逸らした。

「昨日の夜の事、気にしているのか。」

『そんな事…!』

「あるんだろ。」

『…っ。』

やはり告白してしまったのは早かった。
シルバーは後悔した。
口付けによってリミッターが外れ、気持ちを抑制出来ずに伝えてしまった。
お互いの手持ちポケモンたちは愚か、小夜本人にまで確実に知られていた自分の恋心。
それを口に出すも出さないも、小夜からすれば同じだと思っていた。
ところが、実際はそうではないようだ。

『でも、私…。』

「何だ。」

『…。』

「言ってみろよ。」

『……嬉しかった。』

「!」

小夜の台詞にシルバーは目を見開き、無意識に小夜へと手を伸ばした。
だがその手は小夜の前に立ち塞がるようにして現れたポケモンによって遮られ、届く事は叶わなかった。

『エーフィにアリゲイツ?』

現れたのは、二人の手持ちポケモンの代表格であるエーフィとアリゲイツだった。
この状況を見兼ねてボールから飛び出してきたのだ。
その意図を理解したシルバーは、勝手にボールから出てきた二匹に何も言わなかった。

“こんな微妙な状況で旅なんて出来ないでしょ?

フォローするよ。”

エーフィが小夜に言ったが、シルバーはそのエーフィの台詞に対して通訳を求めなかった。
エーフィは小夜からシルバーに告白されたとまだ直接聴いていないが、二人で森の中に消えていったのを見て難なく勘付いていた。
アリゲイツはシルバーのズボンの裾を引いた。

“行くぞ御主人!”

エーフィも小夜の膝裏を長い尾でぺしりと叩き、先へ行くように催促した。

『ごめんね、シルバー…。』

「いや、俺こそ悪かった。」

二人は何時も以上にお互いの肩の距離を開けながら、渋々歩き出した。
エーフィとアリゲイツは困惑した様子で顔を見合わせた。
エーフィはあの時二人が森に消えていった後、二人に何があったのかとアリゲイツに問い質し、二人が水中で口付けていたと耳にしている。
湯の中にいたアリゲイツは二人の一部始終を見届けていた。
小夜が口移しで酸素を送り、口移しで終わりたくなかったシルバーは小夜の頭を引き寄せて口付けた。
アリゲイツ曰く、小夜はシルバーの口付けに応えなかったそうだ。

“全く、如何なる事やら。”

エーフィは口からそう溢し、アリゲイツがそれに深々と頷いた。
小夜が何を考えているのか、エーフィは上手く掴めなかった。
トージョウの滝までまだ距離がある。
休憩時間になれば小夜の口からじっくりと話を訊くべきだ。




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