告白-2

小夜はシルバーに手を引かれながら、ランプの灯を頼りに深夜の暗い森を進んでいた。
シルバーが握る手の力は強いし、きつく引かれている為に、小夜は時折前のめりに躓きそうになる。
湯から上がったばかりの身体は濡れていて、季節が夏の今でも夜風を肌寒く感じた。
無言のまま此方を向かないシルバーに、小夜は静かに口を開いた。

『シルバー、身体が冷えちゃうよ。』

エーフィが持ってきてくれたタオルは二枚あり、小夜はシルバーの分を手に持ったままだった。
シルバーは突然立ち止まり、小夜は勢い余ってその背に鼻をぶつけた。

『ぶ!』

鈍痛がする鼻を擦ろうとした小夜だが、振り返ったシルバーに両肩を傍にあった巨木に押し付けられた。
シルバーが持っていたランプが落下してガラス管が割れ、頼りにしていた灯が消えた。

『……シルバー?』

真っ暗になった視界の中、小夜はシルバーが俯いているのを見た。
月明かりだけが頼りになった今、暗闇に馴れない瞳はまだ上手く機能しない。

「お前に…。」

小夜の肩をぐっと掴んで木に押し付けているシルバーを、小夜は紫の瞳を揺らしながら見つめた。

「ずっと言いたかった事がある。」

『…。』

「今までにも何度か言おうとしてきた。」

徐々に機能し始めた小夜の瞳は、顔を上げたシルバーの表情を捉えた。
真剣そのものであるシルバーの赤い双眼に見据えられ、小夜の心臓はまたしても鼓動が速くなった。

「もうお前は気付いている事だとは思う。

だが…言わせてくれ。」

この後何を言われるのか。
小夜は直感で悟った。

「俺は、お前が――」

『待って。』

聴く事に恐怖を覚えた小夜は、咄嗟にシルバーの台詞を遮った。
脳裏を過るのは、銀髪の彼がくれた優しい笑み。
愛の言葉をくれた恋しい声。
小夜の目尻に涙が浮かんだ。
シルバーから気持ちを聴くのが途轍もなく怖い。

「もう待てねぇよ!」

押さえ付けられていた肩が自由になったかと思うと、腕を強く引かれて抱き締められた。
小夜が持っていたバスタオルが手から落下し、肩に掛けていたバスタオルも滑り落ちた。
包み込まれるようにぎゅっと抱き締められ、濡れているお互いの身体はひたりと密着する。
今この瞬間、温もりをくれるのは紛れもなくシルバーだ。
亡くなった彼ではなく、命と体温のあるシルバーだ。

「ずっと前にも言った通り、あいつを亡くした弱みに付け込もうとか、そんな事は全く考えていない。

ただお前とずっと一緒に旅をしてきて、気持ちが膨らみ過ぎたんだ。

もう口で伝えないと気が済まない。」

耳元で囁くように言われると、小夜の頬が染まった。
小夜はもう何も言わずに、シルバーの言葉をじっと待った。
シルバーは自分の心臓の鼓動が誇張して聴こえた。
息をゆっくりと吐き、意を決した。


「俺はお前が好きだ。」


十五歳にして初恋だった。
何時から恋だと自覚していたかは分からない。
一目見た時から魔法のように惹き付けられ、日々を共にすればする程に魅了された。

「能力を使って皆を守る強いお前も、大切な人間を亡くして哀しむお前も、俺は好きだ。」

『っ、何言って…。』

「嘘じゃない。

それくらい惚れてる。」

小夜はシルバーの気持ちを知っている筈だった。
シルバーが持つ感情が友としての好き≠ナはなく、恋としての好き≠ナあるという事も。
充分に承知しているつもりだった。
だがシルバーの気持ちを直接口から聴いた今、自分の理解が浅はかだったと気付いた。

『馬鹿…。』

「フン…何とでも言えよ。」

シルバーは鼻で微かに笑うと、小夜の濡れている頭を撫でた。
身体から滴る湯は当に冷め、ひんやりとしている。
シルバーは小夜の背に回していた腕を解き、身体を離した。
ランプの灯がない今、小夜はどのような表情をしているのだろうか。
シルバーには覗う事が出来なかった。

「今、どんな顔をしているんだ?」

シルバーは小夜の額に張り付く前髪を掻き上げ、両手でその頬に包むようにして触れた。

「熱いな。」

『…逆上せたの。』

「照れているのか?」

『…照れてない。』

「そうかよ。」

シルバーは小夜の両頬に一度ずつ唇を落とした。
唇に降ってくるかと思った口付けに、小夜の肩はピクリと跳ねた。

「安心しろよ。

もう口にはしない。」

端整な顔立ちのシルバーが暗闇の中で微笑むのを見ながら、小夜は瞳を瞬かせた。

「俺が欲しいのはお前の身体じゃなくて、心だ。」

『…。』

小夜の心の中はごちゃごちゃだった。
銀髪の彼が恋しい、愛しい。
だが彼がいない今、心に最も光をくれるのはシルバーだ。

「まだ答えを求める気はない。」

シルバーは落としてしまったバスタオル二枚を拾い上げた。
傍にランプはガラス管が割れてしまい、もう使い物にならなさそうだ。

「まだニューアイランドから帰ってすぐなのに、気持ちを伝えて悪かった。

余計に混乱するよな。」

『…ううん…。』

小夜はシルバーの肩口に顔を押し付けた。
水に濡れているその肩はひんやりとしていて、火照った顔に心地良かった。

「…。」

シルバーは小夜の行動の意図が分からなかった。
水中で口移しとはいえ口付けたり、告白した直後なのにこうして触れてきたり。
如何しても自惚れてしまう。

『シルバー。』

「如何した?」

『ありがとう。』

小夜はシルバーの頬に自分のそれを寄せた。
シルバーの髪から滴る水滴が、まるで涙のように小夜の頬を伝った。



2013.3.11




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