二度目の旅立ち

オーキド博士からポケナビを貰った日の深夜。
エーフィは自分用のベッドで既に就寝し、起きているのはボーマンダ、ニドリーノ、アリゲイツ、そして小夜とシルバーだけになった。
シルバーはカーペットの隣に敷布団を敷き、寝る体勢に入る。
アリゲイツは躊躇なくシルバーの布団に潜り込んだ。
ニドリーノはボーマンダの背中に乗って目を閉じた。
毎度ちょっかいを掛けてくるニドリーノに、怒りの欠片も見せないボーマンダは実に寛大だ。
他のポケモンたちも大きくはないカーペットの上で寄り添い合って眠っている。
小夜はベッドに腰を下ろして膝を抱え、遠い目をしていた。
その様子にシルバーは心配を隠せなかった。

「小夜、寝ろよ。」

『うん。』

「電気消すぜ?」

『うん…おやすみ。』

「ああ、おやすみ。」

照明が就寝灯に変わると、二人は布団を被った。
シルバーは今朝の事を思い出して中々眠りに就けなかった。
お互いの頬に手を伸ばし、ケンジが部屋に入ってくるまで見つめ合ったのだ。
小夜は如何して自分の頬に手を伸ばしてきたのだろうか。

今日の小夜の様子は元気そうだった。
昼はハガネールとネンドールを含めた手持ちポケモンたちと庭で戯れ、夕食を作ったりと活動的だった。
ただの空元気だろうが、オーキド博士からプレゼントを貰った時も小夜は喜んでいた。
これがこのまま続けばいいのだが、そうも簡単に事が進む気はしない。

敷布団の高さからは、ベッドに眠る小夜の姿が見え難かった。
ポケモンセンターのベッドは二つ隣り合わせで並んでいる。
距離もそう遠くなかった為、小夜の事が気になったら身体を起こさずに様子を窺がっていた。
しかし、今は如何だ。
見えないせいで、余計に小夜が気になる。
シルバーはアリゲイツが規則正しく寝息を立てているのを確認すると、そっと身体を起こした。
薄暗い中で見た小夜の布団は、小刻みに震えていた。

泣いている――?

声を殺して泣くその様子に、そっとしておいた方がいいのか、何か声を掛けるべきか、シルバーは悩んだ。
もし声を掛けるとしても何を言ってやればいいのだろうか。
だが放っておけず、シルバーは静かに布団から出た。

「…小夜…。」

布団に潜って身体を丸め、小夜は小刻みに震えていた。
シルバーはベッドの脇に腰を下ろし、布団越しにその身体を撫でた。

やっぱり辛いんだな。

暫く撫でていると、小夜の震えが止まった。
眠ったかと思ったシルバーがベッドから腰を上げた時。
布団から小夜の腕が伸びてシルバーの腕を引っ掴み、ベッドへと引きずり込んだ。
思わず声を上げそうになったシルバーは何とか口を固く結んで堪えたが、突如突き付けられたその状況に目を見張った。
シルバーの額に自分のそれを押し付ける小夜。
その人形のように端整な顔が至近距離にある。
Tシャツの胸倉は小夜に固く掴まれ、引き寄せられている。

『一緒に寝て。』

ポケモンたちを起こさないようにと掠れた声で言う小夜に、シルバーは必然的に顔が熱くなった。

「…それでお前は楽になるのか?」

『きっと。』

「きっと、かよ。」

ふっと笑うシルバーだが、小夜の涙を見た瞬間に笑えなくなった。
やはり、泣いていた。

『温もりが欲しい。』

「……しょうがないな。」

シルバーは小夜より身体を上に移動すると、小夜の顔を胸に抱いた。
小夜は瞳を閉じてその胸に縋り、思いを巡らせた。
これを見たら、彼は怒るだろうか。
だが彼がいない今、誰かの胸に縋りたいと思うのは我儘だろうか。
それがたとえ自分に想いを寄せる人間だったとしても、泣きつきたいと思うのはいけない事だろうか。

お前は酷い奴だと内心思ったシルバーだが、声には出さなかった。
此方の気持ちを分かっていながら、このような事をする小夜は実に皮肉だ。
だが自分が感じるこのもどかしい気持ち以上に、小夜の精神的ショックが大きい事は充分に承知している。

『嫌なら突き放して。』

「そんな事出来るかよ。」

シルバーは小夜の背中を擦った。
その身体はもう震えてはいない。

「さっさと寝ろ。」

『うん。』

小夜がシルバーの背中に腕を回すと、シルバーの優しさで心が満たされた。
眠れるかもしれないと小夜が思った時。
泣き疲れたせいもあってか、小夜は吸い込まれるようにして眠りへと誘われた。




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