手製風呂-3

二人は外へ出たかと思うと、ランプの灯を頼りに人影のない森の奥まで歩いた。
小夜はシルバーの手を引いてきょろきょろしながら、開けた場所を探した。

「おい、何をする気だ。」

『此処ならいいかな?』

落葉樹に囲まれながらも一定の空間がある其処は、土と草木に覆われた地面だった。
何の変哲もなく、ごく普通の地面だ。

『此処に穴を開けて岩をびっしり積んでお湯を入れるの。

これ、持ってて。』

「穴を開けるってまさか――」

小夜が袖を捲るのを、見てまさかと思った。
シルバーは差し出されたランプを受け取ると、反射的に後方へと走った。
その瞬間、小夜は地を蹴って宙に高く跳び、拳を振り上げて地面に向かって叩き込んだ。


―――ドゴォ!!!


シルバーが太い木の背後に隠れていると、聞き覚えのある轟音がした。
砂埃が付近に充満し、シルバーは目を固く瞑った。
砂埃がある程度まで収まったところで、シルバーは木から顔を覗かせた。
何の変哲もなかった地面には、直径五mものクレーターが出来ていた。
その中央には、小夜が満足げに立っていた。
シルバーはこの怪力を何度見ても恐怖が湧くのだった。
小夜は洞窟の行き止まりを強行突破だと言って殴り壊したり、前回はピュアーズロックにて金属の装置を拳一つで粉砕した。

『よし、次はエーフィ!』

小夜はモンスターボールを取り出し、傍に放った。
次の工程では、エーフィが念力を使用して岩をクレーターの中に窮屈に敷き詰めた。
風呂とはいえ三m以上の水深があるのではないか、とシルバーは思った。
まるで水深の深い池だ。

『バクフーン、ボーマンダ!』

小夜は雄の二匹を繰り出すと、木から遠慮がちに顔を出しているシルバーに視線を送った。

『ほら、シルバー。』

「……何だよ。」

『アリゲイツよ。』

「水を入れて火炎放射で温度を上げるのか。」

小夜は楽しそうに頷いた。
シルバーは隠れるのを止めて小夜の隣まで歩き寄ると、アリゲイツをその場に放った。
そして岩が敷き詰められたクレーターを指差して命令した。

「アリゲイツ、ハイドロポンプだ。」

“了解御主人!”

アリゲイツは深々と息を吸い込み、口から大量の水を放出した。

『二匹共、火炎放射!』

二匹も同じように息を吸い込むと、クレーターに溜まり始めた水に灼熱の炎をぶつけた。
ランプのみだった明りが一気に眩しくなった。
エーフィは風呂に入れる喜びでふんふんと鼻歌を口ずさみ始めた。

『よし、もういいよ。』

「アリゲイツ、ストップだ。」

二人の命令に忠実に従う三匹は、技の放出を止めた。
湯気が立ち込める温泉のような風呂の完成だ。
湯は透明で濁りがなく、岩がしっかりと敷き詰められているのが窺える。
エーフィが前脚を出してその湯に触れ、その温度を確認した。
丁度良さそうだ。

『レジャーシートと服を持ってきましょう。』

火炎放射の明りがなくなって薄暗くなった為、バクフーンはささっと薪を集めてそれに火を点けた。
周辺がほんのり明るく照らされ、立ち込める湯気がはっきりと見えるようになった。
バクフーンが湯へと手を伸ばして苦手な水に触れようとすると、悪戯心の湧いたアリゲイツがバクフーンの背を押した。


―――どぼーん!


顔面蒼白になったバクフーンが湯に突っ込んだ。
その水飛沫は二人に掛かりそうになったが、隣にいたエーフィが小夜だけを結界で防御した。
びしょ濡れになったシルバーはアリゲイツを睨んだ。
アリゲイツはけらけら笑ったが、ボーマンダがその首根っこを咥えて湯に投げた。
二度目の水飛沫に怯んだエーフィは結界を張れず、小夜とシルバーは湯を被った。

「てめぇら…。」

『やったなー!』

「おい、小夜!」

小夜はスニーカーと帽子を脱ぎ捨て、湯にダイブしたが、頭から湯に入った為に水飛沫は殆ど起こらなかった。
湯から顔を出したアリゲイツは、小夜に両腕で抱えるようにして捕まえられた。
バクフーンは必死で湯から上がると、ボーマンダの隣でぐったりとダウンした。
アリゲイツとじゃれ合う小夜に、シルバーは思わず顔が綻んだ。
だが自分の隣でエーフィが妖しく笑っている事に気付かなかった。
シルバーが手に持っていたランプが離れて浮遊したか思うと、シルバーの身体までもが浮遊して湯へと突っ込んだ。
何度目かの水飛沫が立ち、バクフーンは慌ててそれを避けた。

「……ぶはっ!

念力だな!」

シルバーは予想以上に水深のある手製の風呂から顔を出し、エーフィを睨んだ。
するとその背後から小夜がシルバーの肩を下方にぐっと押して湯に頭まで沈め、自分も湯の中に潜った。
この野郎!と言ってやろうと思ったシルバーだが、水中で声を発するのは無理だ。
鼻で湯を吸い込んでしまったシルバーは、その透明な湯の中で小夜の整った顔が悪戯っぽく微笑んでいるのを見た。
小夜のアウターが少し捲れると、数週間前に負ったあの腹部の傷が全くなくなっているのが見えた。

良かった、綺麗に消えたんだな。

シルバーは水中で口角を上げて笑うと、小夜の腕を掴んで水中に押し込んだ。
瞳を丸くした小夜はシルバーと同じくらいの水深まで引っ張られると、対抗心が湧いてシルバーを更に奥深くまで引いた。
それを見ていたアリゲイツがシルバーの前まで泳ぐと、シルバーの脇腹を擽った。

「!!」

ごぼっと空気を吐いてしまったシルバーは、突然の息苦しさに固く目を瞑った。

『!』

小夜がシルバーの頭に手を伸ばした。
シルバーは何かが触れる感覚に瞼を開いた。
水で霞んだ視界の中で、小夜の整った顔が近付くのを見た。
その次には、以前も感じた事がある柔らかい唇の感触がした。
頭が真っ白になったシルバーは、ただ水の浮力に任せて浮遊していた。



2013.3.9




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