手製風呂-2

小夜は皆に何があったのかを全て説明した。
全員が真剣に聴いてくれたし、ポケモンたちには部屋を抜け出した事を強く非難されなかった。
ポケモンセンターで昼食を摂った後、トキワシティから出発した。

『トージョウの滝までに一ヶ所だけ宿泊出来る小さな休憩所があるけど、それ以外は野宿ね。

三日くらいは野宿になりそう。』

「そうか。」

隣でタウンマップを開きながら説明する小夜を、シルバーは今まで以上に意識していた。
今朝は口付けそうだったが、小夜の台詞に阻止された。
あれは遠回しにやんわりと否定されたのだ。
小夜はタウンマップをリュックにしまうと、じっと見つめてくるシルバーと視線を合わせた。

『ん?』

「いや、何でもない。」

トキワシティを抜け出して野原に出ると、土の断崖に行く手を阻まれた。
二人が通っている道は舗装されておらず、二人は無理に通っている状態なのだ。
自分の身長以上ある断崖を小夜は軽々と地を蹴って登ってしまうが、シルバーはそうもいかない。
先に上まで登った小夜はシルバーに手を伸ばし、シルバーがその手を取った。

「っ。」

こんな些細な事でも、シルバーの心臓は跳ねてしまう。
ぐっと腕を引かれると身体が浮き、小夜の前に着地した。
その際の身体の近さにもわざわざ反応してしまった。

「わ、悪い。」

『いいの。』

シルバーの胸の内など露知らず、小夜は微笑んだ。
それに怯んだシルバーはふいと顔を逸らしたが、握っていた手をそのままに歩き始めた。
小夜は瞳を瞬かせたが、シルバーの隣でその手を握り返した。
小夜はちらりと顔色を覗ってくるシルバーに、にこにこした。
シルバーに対して胸は高鳴りはしないが、こうやって触れて貰えると嬉しい自分がいる。
オーキド研究所でシルバーの頬に触れた時のように、触れたいと思う時もある。
今朝、トキワシティの外れまで車で送り届けてくれたブソンから、別れ際に貰った言葉があった。


―――あいつの時間は止まっちまった。

―――だが生きてる俺たちは前に進まねぇとな。

―――そうだろ、嬢ちゃん。


ブソンという人物はサングラスをかけているし、体格ががっちりとした不良のイメージがあった。
だが実際には、全くそうではなかった。
ロケット団員であるという部分に目を瞑ると、パートナー想いの良い人物だった。

『シルバーも良い人ね。』

「は?」

またこの想い人は、何の予兆もなく意味不明な事を言い出した。
シルバーは眉を寄せて苦笑した。

「何だよ急に。」

『何でもない。』

「相変わらず意味不明なんだよ。」

ぶっきらぼうに言うシルバーだが、その手は小夜の手をしっかりと握っている。
ツンデレと言えば煩いと言って一蹴されると思い、小夜は敢えて何も言わなかった。


二人は何度か休憩を挟みながら、トージョウの滝まで続く道の途中にある休憩所まで到着した。
休憩所は平屋になっていて、宿泊部屋がたったの三室しかないちっぽけな宿だった。
三十代の女性が一人で受け付けをしていたが、他にトレーナーが宿泊している気配はなかった。

『此処はチャンピオンロードに向かう道だしね。』

本来はバッジを八つ持っているトレーナーが通る道なのだ。
確かにこの付近の野生のポケモンはレベルが高いし、鉢合わせたトレーナーも全員が強敵だった。
それに対処したシルバーのポケモンは疲労困憊だ。
小夜はその都度木の実を与えて回復させていたが、その木の実ももう少しでなくなってしまう。
明日はこの周辺で木の実探しをしながら先に進もうと決めた小夜は、宿泊部屋のノブを回した。
部屋は温かみのある畳の和室で、六畳程度だろうか。
自然の木の匂いがした。
ポケモンセンターと比較すると狭く、これではポケモンたちを出してやれない。

「野宿よりマシだろ。」

『洗面所もあるし、いいんじゃない?』

小夜は古い木製の洗面所の扉を開け、中を確認した。
シルバーが襖を開けると、敷布団が丁寧に畳まれていた。
ベッドが好きな小夜には申し訳ないが、今日の寝床は敷布団になりそうだ。

『お風呂はあるのかな。』

「共同のシャワー室ならあるようだな。」

シルバーは壁に貼り付けてあった所内地図を見ながら言った。
小夜は不満げな表情をした。

『お風呂がないの?

しかもシャワー室が他のトレーナーと共同?』

「仕方ないだろうが。」

小夜は頬を膨らませて瞳を横に逸らし、何かをうーんと考えた。
シルバーに嫌な予感が過った。
小夜の脳内の豆電球がぱっと光ると、端整な顔を輝かせながら言った。

『お風呂を作りましょう!』

「は?」

また小夜が素っ頓狂な事を言い出した。
畳みの上に腰を下ろしていたシルバーは、唖然とするのを通り越して苦笑した。
小夜はリュックからランプを取り出した。

『ほらシルバー、立って!』

「マジかよ…。」

シルバーは腕を引かれて立ち上がると、休憩所の外まで強引に引っ張られた。
傷心している小夜の気まぐれに付き合ってやるのも、旅のパートナーとしての役割だと思った。




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