幼馴染みとの通話-2
《ま、まあ、兎に角。
おじい様から僕の番号は訊いておいてくれよ。
何時でも話せるようにね。》
『うん!』
小夜は胸が踊った。
もしかしたらサトシもポケナビとやらを所持しているのかもしれない。
遠隔で連絡が取れるのは朗報だ。
《それじゃあ僕はそろそろ行くよ。
番号を手に入れたら電話、宜しく頼むよ。》
『分かった。
シゲルも気を付けてね。』
《ありがとう。
じゃあ、また。》
『またね。』
二人は手を振り合い、画面からシゲルの顔がぷつりと消えた。
シルバーは盛大に溜息を吐いた。
「焦らせないでくれよ…。」
『え?』
「勘違いされるだろ。」
『何を?』
「……てめぇ。」
「ごほん、さて二人共。」
通話を見守っていたオーキド博士が喉を鳴らし、二人はそれに振り向いた。
苛立っていたシルバーは気を取り直した。
「シゲルが言っていた通り、ポケナビは君にプレゼントしようと思っておったんじゃ。」
オーキド博士は両掌に白と黒のポケナビを乗せていた。
二つあるそれを見たシルバーは、目を見張った。
腕時計のようなそれは小型ながら高機能で、トレーナーの間で人気を博している代物だ。
小夜が椅子から立ち上がり、オーキド博士の前に立つと瞳を輝かせた。
『いいんですか?』
「勿論じゃ。」
「それ、もしかして…。」
シルバーは目を見開いたまま身体を硬直させている。
オーキド博士は笑顔を見せ、シルバーに頷いた。
「シルバー君、君の分じゃ。
君には小夜が世話になる。
先に礼と言っては何だが、君にも一つ餞別じゃ。」
小夜は瞳をキラキラさせながら、オーキド博士から白いポケナビを受け取った。
早速左手首に装着すると、その着け心地に感動した。
『わあ、軽い!
ありがとうございます!』
シルバーは戸惑いながらも、黒いポケナビを受け取った。
軽いと言った小夜とは対照的に、これを貰う重みを理解した。
「……ありがとう、ございます。」
人から物を貰うなど、何時振りだろうか。
シルバーは馴れない敬語で感謝を告げると、小夜と同じように左手首にそれを装着した。
小夜が言うように、確かに軽量だ。
オーキド博士は満足げにうむうむと言った。
「小夜、君にはトレーナーカードとポケモン図鑑も渡そう。」
『本当ですか?』
オーキド博士はそれらを小夜に手渡した。
今までは世間に小夜の存在を晒す事に難儀を示していた。
だが全て解決したら、ポケナビや図鑑、そしてトレーナーカードを渡そうと随分前から心に決めていた。
一方のシルバーは、図鑑は持っておらずとも、トレーナーカードは所持している。
「ポケモン図鑑には君の情報が組み込まれておる。
マサラタウンの小夜とな。」
『ありがとうございます!』
小夜は深々と頭を下げた。
小夜が少しでも笑ってくれたら、とオーキド博士が考えていた事だった。
シゲルから小夜にポケナビを渡すようにと頼まれた時には、もう既に手渡す準備は万全だったのだ。
「さて、君たちは何時出発するのかな?」
オーキド博士の問いに、二人は顔を見合わせた。
シルバーは小夜の心が癒えてから此処を出発しようと思っていた。
何時出発したいのか、小夜からの希望をまだ耳にしていなかった。
『一週間だけ此処にいようと思っています。』
じっとしているとバショウの事を思い出してしまう為、実際はもっと早く旅に出たいのが小夜の本音だった。
だがシルバーは眉を寄せた。
「それでいいのか?
もっと休んでもいいと思うぜ。」
『シルバーは私と早く旅に出たくないの?』
「そういう訳じゃ…。」
口籠るシルバーに、オーキド博士は微笑んだ。
シルバーの言動を見ているだけで、シルバーが小夜を如何思っているのかは一目瞭然だ。
「しっかり準備してから行きなさい。
わしは君たちが此処にいるのは歓迎じゃよ。」
『はい。』
「さて、わしは朝食がまだじゃ。
そろそろ食べるとしよう。」
『私たち、さっきの片付けしてきます。』
小夜はシルバーの腕を引き、部屋の扉を開けた。
されるがままのシルバーと共に部屋から出たが、小夜は再度部屋を覗き込んだ。
『博士、本当にありがとうございます。』
「構わんよ。」
小夜は微笑むと、部屋の扉を閉めた。
オーキド博士はほんのり頬を染めたが、一人喉を鳴らして気を取り直した。
シルバーは普段からあの魅力的な笑みと共に生活している。
きっと赤面症に悩んでいる事だろう。
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