2-1

炎柱の雅号を正式に襲名してから、まだ半月も経過していない。
そのような状況下で、前代未聞の問題が発生した。
俺が担当する警備地区で、隊士を脅した女が現れたのだ。
その詳細を報告をするべく、俺は鎹鴉でこの屋敷に呼び付けられた。

「あの子は虚偽の報告をしていたようだ」

俺が片膝をつき、尊敬の眼差しで見上げるのは、鬼殺隊当主である産屋敷耀哉様だ。
お館様と呼ばれて慕われているその人は、もう見えていない目で俺を見ている。
この庭園にいるのは、お館様と俺だけだ。
お館様の声を聞いていると、春風に当てられているような心地良さを感じる。

あの女隊士の報告によると、駆け付けた現場で、仲間の女隊士が下半身を喰われて絶命していた。
そして、その傍らには元々は人間であったであろう血肉や肉塊が散らばっていた。
残っていた頭髪が白かった事や、その皮膚の様子から、犠牲者は高齢だと推測される。
そして、己の手で無事に鬼を討伐した。
それらの報告は一部が虚偽だったのだ。
あの女隊士は鬼を討伐せずに、現場から逃げ出していた。

「あの子は虚偽の報告をしたことを白状したよ。
そして杏寿郎から聞いた通り、最近の任務態度に問題がある。
それらを踏まえて、謹慎処分となっている」
「なるほど!」

この問題が発生する以前に、あの隊士は態度が妙だったのだ。
ごめんなさいと繰り返し呟いたり、任務に遅れたり、更には任務中に姿を消すことさえあった。
あの隊士を部下として一時的に率いていた俺は、謹慎処分を妥当に思えた。
お館様が穏やかに言葉を続けた。

「君が出逢ったのは、花野井那桜という子だ。
彼女の父は元鬼殺隊士であり、君の父である槇寿郎はその育手だった」

俺の父が、育手。
元炎柱である父が、彼女の父を弟子にしていた。
俺が幼い頃だったのだろう。
俺には父が育手をしているような記憶がない。

「彼女の父は、槇寿郎の配下で殉職している」

俺は口を真一文字に結んだ。
今となっては酒に溺れてばかりの父も、弟子を亡くした過去があるのだ。
俺にはもう一つ、お館様に報告しなければならないことがある。
俺は昨日の出来事を思い出しながら、普段通りの溌剌とした口調で言った。

「しかしお館様、あの者は見た事もない呼吸を使っていたのです!」
「どのような?」
「三日月を散りばめたような剣技が、まるで血鬼術のようだったかと!」

一体、あの呼吸は何なのか。
月光に映える斬撃が、魅入る程に美しかったのを覚えている。
呼吸が個々の能力に合わせて派生するのは一般的に知られているが、あれは一体どの呼吸からの派生なのだろうか。

「彼女の父が炎の呼吸を伝授されていたのならば、娘である彼女も同じ呼吸ではないだろうか!」
「彼女が炎の呼吸を伝授されたとは思えない。
記録によると、彼女の父が亡くなったのは十五年も前だからね」

ならば、あの呼吸は一体何処で学んだのだろうか。
あの身のこなしは、何処で鍛錬を積んだのだろうか。

「杏寿郎、君が担当する地区で鬼狩りをしていたのは、彼女かもしれない」

鬼の出現情報を受けて現場へ向かっても、鬼が見つからないという事態が続いていた。
彼女があの女隊士を探している合間に斬ったのかもしれない。

「彼女は祖母をあの子に見殺しにされた。
鬼殺隊当主として、そのような隊士を送ってしまったことを申し訳ないと思っている」
「お館様の責任ではありません!
俺がもっと早く、あの隊士の異常に気が付くべきだった!」

柱として、一時的にあの女隊士を率いていた責任がある。
お館様は鬼殺隊を統括する者として、責任を感じているのだろう。

「杏寿郎」
「はい!」
「彼女が隊士の一人を脅迫したのは問題だ。
それでも私は彼女のように有能な剣士が鬼殺隊に必要だと思っている。
彼女のことは杏寿郎に任せたいと思っているよ」
「御意!」

お館様は花野井那桜を鬼殺隊に入隊させたいのだろう。
鬼の勢力が増し、柱や隊士が不足している今、有能な剣士が必要だ。





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