11-1

あの夜、那桜の屋敷に泊まらなかったのは良かったかもしれない。
もし仮に泊まっていたとしたら、色々と我慢する自信がなかったからだ。
泊まりたいとは言ってみたものの、時期尚早だっただろうか。
那桜を大切にしたいし、怖がらせたくはない。

「もしもーし、煉獄さん?」
「どうした胡蝶!」
「それはこちらの台詞です。
何度もお声かけしましたよ」
「そうだったか、すまない!」

俺はお館様に任務に関する報告を終えた後、産屋敷邸から帰路につこうとしていた。
庭園で胡蝶に呼び止められていたようだが、考え事に耽っていた俺は気付くのが遅れた。
胡蝶は相変わらずの微笑みを浮かべながら言った。

「隊士の間で噂になっていますよ」
「噂とは何のことだ?」
「煉獄さんが美しい女性と逢瀬を重ねていると」
「そうか!」

別に誰に知られようと構わない。
お館様や柱を含めた鬼殺隊士全員の前で、那桜は俺の女だと叫んでもいい。
那桜は自分が鬼殺隊士を脅迫した物騒な女だと話していたが、鬼殺隊士の命を救った人間でもあることを忘れている。

「お相手はやっぱりあの方ですよね、花野井那桜さん」
「うむ!」
「是非とも鬼殺隊に欲しい人材ですが、勧誘できそうですか?」
「勧誘はしていない!」

胡蝶は微笑みを絶やさないまま、小首を傾げた。
その微笑みの奥にある真意は、何だろうか。
ただ顔に貼り付けてあるだけのように感じる時がある。
胡蝶は物静かに言葉を並べた。

「彼女は鍛錬もなしに、記憶の片隅にあった呼吸を使えるような逸材ですよ」
「それは充分に理解している」
「煉獄さんの怪我を縫合したのも彼女でしたね」

もう先週になるが、俺の抜糸をしたのは胡蝶だ。
その丁寧な縫合に、胡蝶は感心していた。
那桜は医療技術も然ることながら、剣術の才覚もある。
胡蝶は那桜に医療技術があると知り、より一層力を貸して欲しいと思うようになったらしい。
怪我人が続出するような任務があると、蝶屋敷も忙しないだろう。

「俺は那桜を無理に入隊させるつもりはない」
「私情を挟んでおられますね?」
「その通りだ!」

俺が潔く認めると、胡蝶は諦めたように微笑んだ。
俺は那桜を危険な目に遭わせたくない。
たとえ那桜が鬼殺隊士にならずとも、俺が鬼から守ってみせる。

「言っておくが、お館様も那桜の気持ちを汲んでくださっているぞ」
「私も強引にとは思っていません。
それでも私は花野井さんが鬼殺隊に必要だと思っています。
鍛錬を積めば、柱にだってなれると思いませんか?」

胡蝶は那桜の力をかなり欲しているようだ。
しかし、俺は那桜の意思を尊重する。
那桜が鬼殺隊士になりたいと望むのであれば、力を貸すつもりだ。

「いつでも蝶屋敷に来てくださいと花野井さんに話しておいてください。
あなたの力を貸して欲しい、と」
「話しておこう!」
「それと、こちらが本題です。
花野井さんに命を救われた隊士が、直接お礼を言いたいと話していました」
「それも話しておこう!」
「宜しくお願いしますね」

今夜、那桜の屋敷へ行く予定だ。
その時に話をしよう。





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