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宴の翌日、あの子はやっぱり噂になっていた。
清楚で可愛らしい容姿が、人目を惹く女の子。
ついた呼び名はレイブンクローの聖女≠セ。
同じレイブンクロー生から早速愛の告白を受けた、という話も聞いた。
色々な噂を耳にしても、俺があの子を見かける機会は大広間だけだった。
人気者のあの子は、男女学年問わず誰とでも楽しそうに話している。
俺も廊下ですれ違ったりでもすれば、話しかけてみたいと思う。
でも、あの子はレイブンクローの一年生で、俺はグリフィンドールの四年生。
興味があるのに、遠い存在だ。
フレッドも同じように思っているんだろうな。
お互いに口には出さないけど、何となく分かる。
なんたって、俺たちは双子だ。



「見たか、フィルチの顔」
「今頃泣いてるかもな」

消灯時間間近になると、廊下は薄暗くて不気味だ。
その雰囲気すらも、悪戯好きの俺たち双子を浮き立たせる材料になる。
フィルチの管理人室で悪戯をけしかけた俺たちは、今日の収穫を笑い合いながら廊下を歩いていた。
すると、突き当たりの廊下を何かが素早く横切った。
小さくて丸っこくて、白い塊のように見えた。
俺は目を細めたけど、一体何だったのか分からなかった。

「なあ、今の何だ?」
「ゴーストか?」
「ゴーストなら半透明だろ」
「行ってみようぜ」

人一倍多い好奇心を刺激された俺たちは走り出した。
白い何かを追おうと角を曲がった時、目の前にいた女の子にぶつかりそうになった。
フレッドと同時に「うわっと!」と言って、慌てて数歩下がった。
のんびりした女の子の声が聞こえた。

「びっくりした」

その子はブロンドの髪がほわほわと長くて、奇妙な形をした大きな眼鏡をかけていた。
眼鏡のせいで顔が全く分からないし、前が見えているのかと疑問に思う。
そして、何故か裸足だった。
フレッドが面白おかしそうに言った。

「おっと失礼、怪我はないかい?」
「こんな時間に裸足で彷徨っているとは!」
「夢遊病かい?」

不思議なこの子に心当たりがあった。
確か、レイブンクローの一年生に風変わりな女の子がいた筈だ。

「俺はフレッド・ウィーズリー。
同じ顔のコイツはジョージ・ウィーズリー」
「俺たち双子さ」
「あんたたちの事、知ってるよ。
だって有名だもン。
あたしはルーナ・ラブグッド」

思い出したぞ。
ルーニー、つまり変人と呼ばれている子だ。
ゆったりとした口調が独特の雰囲気を醸し出している。
そして、その足元には白い塊があった。

「猫?」

白い塊の正体は猫だった。
壁にある松明の炎の光がオレンジ色に燃えているから、猫の体毛の色はオレンジっぽく見えてしまう。
でも、多分白じゃないかな。
全身が白くて、ふわふわで柔らかそうな毛並みの猫だ。
ラグドール、もしくはペルシャ猫だろうか。
ルーナの隣で上品に座っている猫は、顔立ちが綺麗だ。
こんなに美形の猫も珍しいと思う。
フレッドが興味深そうに猫の顔を見ながら訊ねた。

「君の猫?」
「違うよ、友達。
あたし魔法生物が好きなンだ」

この子、魔法生物なのか?
それとも誰かが買っている猫だろうか。
この毛並みを見ると、禁じられた森から迷い込んだ猫だとは思えない。
柔らかそうな毛並みに惹かれて、フレッドは猫を撫でようとした。
猫は一歩下がり、フレッドをさり気なく拒否した。
ルーナがマイペースに忠告した。

「この子、触られるのが嫌いなンだよ」

フレッドが手招きしても、じっと動かない猫は無関心な様子だ。
これ以上手を出すと、引っ掻かれそうだ。

「じゃあね、双子のウィーズリー」

ルーナは小走りする猫を連れて、スキップしながら去っていった。
おっと、消灯時間が過ぎそうだ。
グリフィンドールの減点を企んだスネイプが、寮の前を彷徨いているかもしれない。
俺はフレッドを急かした。

「俺たちも急ぐか」
「そうだな」

罰則は御免だ。
俺たちはグリフィンドール寮へ急いだ。



2019.6.3




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