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俺の疑問は確信に変わりつつあった。
アフロディーテがピーブズを見事に追い返した時、俺はその瞳をついじっと見つめてしまった。
アフロディーテとあの猫の瞳は、形が違っても、同じレイブンクロー色だ。
図書館でアフロディーテを見下ろした時の視線の絡み方も、あの猫と同じだった。
アフロディーテの頭を撫でた時、あの猫の毛並みとは違った感触がした。
でも、アッシュブロンドの髪色は猫の体毛と同じ色だった。
フレッドには何も話せなかった。
きっと、アフロディーテには何らかの事情がある。
消灯時間を過ぎても、グリフィンドールの談話室にいた理由がある。
フレッドも勘付いていると思う。
あの猫は、アフロディーテだ。
ピーブズを追い払うアフロディーテを見て、俺は思った。
アフロディーテは俺の予想以上に腕の立つ魔女のようだ。
フィルチやマクゴナガルを悪戯で困らせまくっているピーブズを、アフロディーテは簡単に懲らしめてしまった。
しかも、猫のアニメーガスだ、多分。
まだ一年生なのに、君は如何してそんなに優秀なんだろう。
君の事を、もっと知りたい。
土曜日の朝。
「クィディッチの練習だ!起きろ!」と喧しい声で揺すり起こされた。
グリフィンドールのクィディッチチームのキャプテン、オリバー・ウッドの声だ。
オリバーは六年生で、リーダーシップ性のある逞しいキャプテンだ。
ただ、その熱意にこっちのやる気まで持っていかれそうになる時もあるけど。
「…オリバーにやる気を吸い取られる気がするよ」
「…同感だ、相棒」
俺とフレッドはクィディッチ用の真紅のローブを持ち、だらだらと螺旋階段を降りた。
城を後にして、朝露で濡れた芝生の斜面を通り、クィディッチ競技場に辿り着いた。
更衣室のロッカールームでのそのそと着替えてから、ボードのある部屋へと移動した。
すると、気合いをメラメラに燃やしているオリバーの姿が、俺の目に飛び込んできた。
他の選手は皆眠そうにしていたし、俺もフレッドも赤毛がくしゃくしゃのままだ。
ハリーが最後に姿を現すや否や、オリバーは大演説を始めた。
「グラウンドに出る前に、諸君に手短に話しておこう。
ひと夏かけて、全く新しい練習方法を編み出したんだ」
オリバーはクィディッチ競技場の大きな図を掲げて、杖で図上の線やら矢印やらを動かしながら話した。
フレッドは頭が隣のアリシア・スピネットの肩に乗っかり、いびきをかきはじめた。
俺がフレッドの頭を肘で小突くと、フレッドは気怠そうに頭を上げた。
長ったらしい大演説を右耳から左耳に流しながら、俺はアフロディーテの事を考えた。
俺もアフロディーテの肩に頭を乗せてみたいものだ。
きっと、いい匂いがするんだろうな。
……変態か、俺。
今頃、アフロディーテは何をしているんだろう?
城では朝食の時間だろうな。
アフロディーテは何を食べたんだろう?
好きな食べ物は何だろう?
「諸君、分かったか?
質問は?」
「質問、オリバー」
現実に戻った俺は、アフロディーテの事を半分考えたまま、文句を口にした。
「今まで言った事、なんで昨日のうちに、俺たちが起きてるうちに言ってくれなかったんだい?」
オリバーはムッとした後、去年のクィディッチ杯の敗北を口にした。
去年のシーズン最後の試合には、シーカーであるハリーが不在だった。
賢者の石を求めて大冒険をしたハリーは、意識不明で医務室にいたからだ。
確かに去年は悔しくて堪らなかった。
今年こそ、優勝したい。
アフロディーテに格好いいところを見せたい。
―――すっかりアフロディーテに夢中だな。
嗚呼、本当だ。
俺はあの子に夢中なんだ。
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