検査結果

小夜は左腕のチクッとした痛みに顔を顰めた。
昨夜にシルバーが話していた通り、今日は小夜の定期検診だ。
採血を担当しているのはシルバーだった。
今まではオーキド博士に採血をして貰っていた小夜だが、シルバーの方が上手いと思っていたりする。
痛みが少なく、短時間で終わるのが不思議だ。
針を抜かれると、小夜は肩の力を抜いた。
血が僅かに滲む痕をアルコール綿で押さえられた次には、肌は綺麗になっていた。
小夜は治癒能力が高い。

「痛かったか?」

『大丈夫。』

白衣姿のシルバーは小夜の頭を軽く撫でてから、作業に入った。
一度の採血で小さな採血管を二本消費した。
その内の一本が小型遠心分離機に入れられ、小さな機械音が室内に聞こえた。
二階にあるこの研究室には、二人の他にもオーキド博士がいる。

「小夜、次は身長じゃ。」

『はーい。』

小夜は慣れた様子で身長計に乗った。
用紙とペンが挟まれたバインダーを片手に持っているオーキド博士が、小夜の頭に乗せた目盛りを確認した。
ペンを手に取る前に、目を見張った。

「…おや?」

『え?』

オーキド博士の声に、シルバーは眉を寄せた。
遺伝子の定量を行う機器を操作していたが、手を止めて小夜を見た。
小夜とシルバーが不安に思っていると、オーキド博士は二人とは対照的に微笑んだ。

「一cm伸びておる。」

『本当ですか…?』

この三年間で、身長が伸びた事は一度もなかった。
同じ数値を常に維持していたのだ。
オーキド博士は改めて数値を記録した。

「もしかしたら、シルバー君に合わせて伸びておるのかな?」

「俺に小夜が合わせている…?」

シルバーはこの四ヶ月で三cm伸びた。
小夜の測定値を不審に思い、シルバーは自分が担当している検査を急いだ。
一方の小夜は嬉しそうに微笑んでいる。
シルバーは再び手を止めた。

「何が嬉しいんだ?」

『だってシルバーに置いていかれたくないもの。』

小夜は八歳になった時には現在の外見まで成長していて、それ以来は成長が止まっている。
もし小夜がこのまま成長しなければ、シルバーと外見が年々離れてゆく。
シルバーはそれをずっと懸念していたのだ。
小夜の身長が伸びた結果を考慮して、どのような検査をすればいいのか、シルバーはすぐに思い立った。

「ホルモンの検査をします。

俺に任せて下さい。」

「うむ、任せよう。」

シルバーは一通りの作業を手早く済ませると、試験管の一本を手に取り、白衣を脱がずに扉を開けた。

「調合室に行ってきます。」

「頼んだぞ。」

『行ってらっしゃい。』

小夜とオーキド博士は足早に去ったシルバーを見送った。
シルバーの白衣姿をも見慣れたものだ。

『博士。』

「何かな?」

検査機器のキーボードを操作しているオーキド博士は、画面を見たまま返事をした。
小夜は椅子の背凭れに背中を預けながら、浮かない表情をした。

『シルバーを好きになってから、とても怖いんです。

オーキド博士にもシルバーにも、置いていかれるかもしれない事…。』

自分だけが同じ容姿を保ったまま、シルバーやオーキド博士は年齢を重ねてゆくかもしれない。
特にシルバーは身長が伸び盛りのようで、どんどん大人になってゆく。
一人だけ置いていかれるのが怖かった。

『長寿のポケモンみたいに何百年も生きられなくていいから、皆と一緒に歳を重ねたいんです。』

操作の手を止めたオーキド博士は、小夜の弱々しい微笑みを見た。
成長異常のある小夜は、人間よりも遥かに寿命が長いのではないか。
オーキド博士はそう考えていた。
ニューアイランドの研究員たちは、小夜の成長異常を想定していたのだろうか。

「わしもシルバー君も、君がどのような成長をしようとも受け入れるつもりじゃよ。」

『ありがとうございます。』

皆と一緒に歳を重ねていきたい。
以前にも増して、小夜は強くそう願っていた。





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