意識するこの先

国光が家に来ると、帰りはお姉ちゃんが車で送ってくれる。
あたしは毎度一緒に乗り込み、後部座席に国光と隣同士で座る。
手塚宅に到着すると、国光がドアを開ける前にお姉ちゃんに言った。

「ありがとうございました。」

「いいのよ、また来てね。」

国光が車を降りると、あたしは窓を全開にして顔を出した。
背の高い国光を見上げながら、キスしたいなんて思ってしまう。

『また連絡するね。』

「ああ、待っている。」

車が発進し、あたしは国光が見えなくなるまで窓から手を振った。
座席に座り直し、窓をきちんと閉めた。

「相変わらず仲が良いわね、羨ましいわ。」

『えへへ。』

国光と交際して2年半が過ぎた。
大人の包容力のある国光に甘えてばかりのあたしは、国光が毎日大好きだ。
海外遠征が多いあたしに対して、国光は文句の一つも言わない。
毎試合激励してくれるし、勉強も教えてくれる。
国光から借りている勉強ノートは、あげると言われたから遠慮なく貰ってしまった。
沢山あるノートは全て大切に使っていて、お陰様で成績は学年トップをキープしている。
勉強するのは主に移動時間の飛行機の中だ。

「手塚君のお陰で体調も良いし、勉強も出来るようになったし。

ほんと良いこと尽くめね。」

『うん。』

小学生の頃のあたしはお世辞にも頭が良いとは言えなかった。
テニスとゲームさえ出来れば、勉強なんてそっちのけでいいと思っていた。
そのあたしが勉強会で教える程になったのは、国光のお陰だ。
車が実家に到着し、あたしはお姉ちゃんに改めてお礼を言ってから部屋に戻った。

『ふー。』

折り畳みのテーブルをクローゼットに片付け、お風呂に入る準備をした。
寝間着を持ってドアノブを回そうとした時、国光の辛そうな顔を思い出した。

―――…すまない…。

国光が唇で触れた首筋に手を当てた。
また胸がドキドキしてきた。

『やっぱり…国光は意識してるのかな…。』

国光も年頃の男の子だし、そういう事を意識するのだろうか。
この先に進む勇気が、あたしには足りない。
でも、興味はある。
まだ誰にも話していない秘密の悩みだ。



2018.4.21




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