お泊まり会

小学生の頃からの親友、桃城華代。
マシュマロみたいにふんわりした雰囲気が清楚で可愛らしくて、人目を惹く女の子。
華代と対照的なあたしは、ドジで間抜けでそそっかしい。
中学1年生の頃、デンマークでスマホを噴水にドボンしたのは悲惨な思い出だ。
国光から「大人しくしていろ」「落ち着け」と言われるのが定番だ。
そんなあたしでも、華代の事が大好きだ。
卓球のピンポン球のようにあっちこっちに飛んでいきそうなあたしを、丁度いい温かさと優美なバイオリンの音色で包み込んでくれる。

今年も残すところ三日になった。
あたしは桃城宅にお邪魔していた。
テニススクールを早めに終わらせて、バスで此処まで直行した。
仲良しの女の子の家に泊まりに行くと話せば、家族は納得してくれた。
家族の中でも、お母さんだけは華代の事をよく知っている。
盲目になってしまった事も、あたしが華代の事情を他言したくない事も。
お母さんは華代の存在をお兄ちゃんたちに上手く隠してくれている。

『お邪魔しています。』

もこもこの柔らかいパジャマを着ているあたしは、夜遅くに帰宅した桃城パパに挨拶しに行った。
玄関で桃城ママと一緒にお出迎えだ。
スーツ姿が似合う桃城パパの顔は、華代の兄である桃先輩にとても似ている。

「久し振りだな、愛ちゃん。

華代と仲良くしてくれてありがとう。」

『此方こそ、華代には仲良くして頂いています。』

あたしは律儀に頭を下げた。
すると、廊下から桃城兄妹が顔を出した。
華代は壁に手を添えながら歩いてきたけど、その足取りは前が見えているかのように軽い。
桃先輩が華代について来た。

「親父、遅かったな。」

「お父さん、お帰りなさい。」

「ただいま。

二人共、愛ちゃんがいるから声が嬉しそうだな。」

桃城パパは靴を脱ぎ、スリッパに足を入れた。
桃城ママに鞄を預けながら、あたしに微笑んだ。

「君の活躍は華代から聞いているよ。

すっかり有名人だね。」

『あはは、そうかもしれません。』

外出する度に、顔を隠すのが大変だ。
時には大掛かりな変装も必要だけど、それを楽しんでいる自分がいる。
お姉ちゃんはあたしに色々な格好をさせるのが面白いみたいで、変装道具のかつらや服を集めている。

「こんな家だけど、ゆっくりしていってくれよ。」

『ありがとうございます。』

今日は華代とゆっくり話そうと思う。
国際試合の出場数を減らす事や、青学高等部の事も。
盲目になって以来、脆くなった華代の心を傷付けないように。
出来る限り慎重に、丁寧に話そう。



2018.8.23



|→

page 1/1

[ backtop ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -