結界

夜になれば、私と花怜は当然のように寄り添い合って眠る。
花怜は妖怪でありながら、睡眠を好んでいる。
私と行動を共にする前は、夜通し移動に費やしていたようだが、こうして二人で寄り添うようになってから、よく眠れるようになったと話していた。
朝になれば、私が花怜を起こしている。

「花怜、朝だ。」
『…おはようございます…。』

ぼんやりとした目の奥に、美しい蒼色の光がある。
座ったまま身を乗り出した花怜は手を伸ばし、私の頬に手を添えた。
その潤んだ目に、私の胸が大きく音を立てた。

『殺生丸さま…。』
「…馬鹿者が。」

この私を無意識に煽るとは。
花怜の肩を強く引き寄せ、私の名を紡いだ唇を塞いだ。
身体を硬くする花怜は、未だに口付けには緊張するようだ。
邪見とりんが近付いてくる気配がしたが、花怜は縋って来た。

「殺生丸さまー!」
「花怜さまどこー?」

邪見が草陰から顔を出そうとした――その時、花怜が片手で印を結んだ。
薄い蒼色の結界が現れ、私たちを包んだ。
二人で唇が触れ合いそうな距離で見つめ合っていると、ついに邪見が姿を現した。

「殺生丸さまー!
どーこ行っちゃったのかなあ。」

私たちの姿が見えていない。
邪見は周囲を見回しながら、背を向けて歩いて行った。

『ごめんなさい…つい。』

半円形の結界の中は不思議と温かく、心が安らぐ感覚がする。
花怜は印を結ぶのをやめたが、結界が消える様子はない。

「声も聞こえないのか。」
『はい、何も。
匂いも遮断していると思います。』

これは非常に便利だ。
この結界さえあれば、私たちはあの二人の近くで何をしていても気付かれない。
私はふと口角を上げた。

『あの…何を考えていますか?』
「さあな。」

花怜が結界を解く前に、強く抱き合った。



2018.6.2




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