意図せぬテレポート

小夜が部屋へ戻ると、ベッドの上で眠っていたエーフィが欠伸と共に出迎えてくれた。
ボーマンダは呑気に鼻提灯を膨らませていて、ヒノアラシはその大きな身体に寄り添ってぐっすり眠っていた。
小夜はベッドに上がると、温かい布団に入った。
エーフィもその中に潜り込み、小夜の身体に擦り寄った。

『ボーマンダとヒノアラシが起きたら話があるの。』

“話?”

シルバーという少年が暫く共に旅をする――
エーフィがそう聴いたら、何と言うだろう。
きっと、何故殺気で脅迫して色々と訊き出さなかったのだ、と拗ねるだろう。
だが小夜はシルバーにあれ以上の荒い手を使いたくなかった。
ポケモン泥棒であると警察に暴く、という発言自体が充分脅迫の部類に入ると思う。
それに暫く、ポケモンに対する彼の態度を見守りたかったのだ。

ミュウツーがロケット団から逃亡するまでの限定した期間のみ、シルバーと共に行動する事を決意した。
ロケット団に狙われている小夜と長期間共に行動するのは、シルバーも危険だ。
ミュウツーが逃亡し、ロケット団が小夜に目を向けてくるまでに、ロケット団に関する情報を訊き出さなければならない。

あの黒い気配から見て、きっとシルバーは余程の悪事を働くロケット団員の息子だ。
そうでなければポケモンに対してあれ程に酷な態度を取ったりはしないし、盗みを働いたりもしない。
小夜はあれやこれやと頭内を回転させている内に、眠りに就いていた。



最も早く目が覚めたのはヒノアラシだった。
太陽は既に真上まで登っていて、時計は十二時を示していた。
ヒノアラシがもぞもぞと動くと、それに気付いたボーマンダも目を覚ました。
ボーマンダは長い首をゆっくりと持ち上げた。
先ずは小夜がきちんとその場にいる事を確認し、胸を撫で下ろした。
自分の主人は気まぐれで、ふらりと何処かへ行ってしまいそうなのだ。

“あつあつの蒸しタオルで拭かれたいなあ。”

ヒノアラシの第一声に、ボーマンダは吹き出した。

“小夜が起きたらしてくれるさ。”

ゆったりした寝起きの口調でそう言うと、ボーマンダは欠伸を一つ溢した。
その欠伸が伝染し、ヒノアラシも欠伸をした。

『むー……スイクン…。』

小夜は寝言でそう呟いてから寝返りを打ち、ボーマンダの方を向いた。
小夜がスイクンを恋しく思っている事に、エーフィもボーマンダも気付いていた。
スイクンは小夜の命を救ったポケモンだ。
スイクンがいたからこそ、六年前の戦闘を乗り切る事が出来た。
短期間しか一緒にいられなかった小夜とスイクンだが、その絆は非常に深い。

『ん…。』

ボーマンダとヒノアラシの視線に気付いたのか、小夜は瞳をうっすらと開けた。
むくりと起き上がり、隣でまだぐっすりと眠っているエーフィが視界に入った。
まだ寝惚けている小夜に、ボーマンダが口を開いた。

“ヒノアラシが蒸しタオルで拭いて欲しいんだって。”

『あ、いいよ。

お風呂で準備してくるね。』

ヒノアラシは嬉しそうに鳴いた。
その声でエーフィが大きな耳を片方揺らしたと思うと、目を覚ました。
小夜は大欠伸をしながら言った。

『エーフィ、朝だよー。』

昼でしょ、と突っ込んだエーフィはベッドの上で伸びをした。
三匹は風呂場へ向かう小夜の背を見送った。
お昼は何をしようか、とエーフィが二匹に尋ねた。
ボーマンダはプールで水浴びがしたかったし、ヒノアラシは修行がしたかった。
小夜を真昼間から人目に晒すのは如何かと思うし、夜から行動するのなら、今もう少し寝るという選択もありだ。

『そうだ、話があるの。』

風呂場から戻った小夜は、ドレッサーの椅子に座って三匹と向き合った。
そして早朝にシルバーと何があったのか、何を話したのかを全て説明した。



エーフィの反応は小夜が予想した通りだった。
エーフィは拗ねたように言った。

“殺気満載で詰め寄れば間違いなく口を割ったのに、如何してもっと脅さなかったの?

お人好しなんだから!”

期間限定であるとしても、不良らしき少年と一緒に旅をするなんて。
エーフィには気が引ける話だ。
ボーマンダはエーフィとは違う観点から言った。

“彼の親が気になるね、ロケット団なのかな。”


―――外見は人間、中身はポケモンである生命体が存在すると聞いた事がある。


彼はこのような極秘情報を耳に出来るような立場だった。
つまり彼の親は極秘情報をさらりと口に出せるような立場の人物だ。
小夜の情報の口外は、幹部のバショウでさえ断じて許されない。
それを踏まえて、ヒノアラシは小さい身体で言った。

“彼の親はロケット団の中でもかなり偉いのかも。”

『私もそう思う。

シルバーの事、バショウに訊いてみる。

何か知ってるかもしれないから。』




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