取引-3

少し間を開けてから、小夜は逆に質問する事にした。

『逆に貴方は何者なの?』

「何故そんな事を訊く?」

『貴方の心の中は真っ黒よ。』

深夜に初めて逢った時からシルバーの気配は憎しみに溢れていて、小夜を驚かせた。
シルバーには何か暗い過去がある。

『何に対する恨みか憎しみかは分からないけど、それをポケモンに八つ当たるのは如何かと思う。』

「そんな意味が分からねぇ事は今まで言われた例がないぜ。」

『意味が分からなくなんてない。

重要な事よ。』

小夜に真っ直ぐ見つめられ、シルバーは心臓が威圧されているような感覚に陥った。
如何やら、目の前にいるこの少女があの殺気を飛ばした事に間違いはなさそうだ。
小夜はこの少年の記憶を如何するのか、結論を出した。
やはり能力を見られているのは都合が悪い。
小夜に関する記憶を削除してしまうのが手っ取り早い。
小夜はシルバーの記憶削除を実行しようと瞳を閉じたが、あのワニノコの顔が浮かんで躊躇ってしまう。

「外見は人間、中身はポケモンである生命体が存在すると聴いた事がある。」

『?!』

小夜は記憶削除の事など頭から飛び、瞳を大きく見開いた。

「それならポケモンと会話していた事も腑に落ちる。」

『……それを何処で?』

「お前に話す筋合いはない。」

『言って。』

シルバー自身が今まで信じられないと思っていた内容だったのに、小夜はそれにやたらと噛み付いた。
これはもしや、と思った。

『言いなさい。』

小夜は紫の瞳でシルバーを強く睨んだ。
途端にあの殺意を思い出したシルバーは、仕方なく口を開いた。

「……ただの、親の仕事関係だ。」

小夜は瞳を細めた。
小夜の正体を知っているという事は、この少年はロケット団員の息子、もしくはあの研究所で勤務していた人間の息子だ。
極秘である筈の情報を知っている事を踏まえると、もし仮にロケット団員の息子であるならば、親は幹部の一握りの内の一人、もしくはロケット団の代表格となる人物だ。
小夜は記憶削除を決行しようと思っていたが、考え直した。
この少年にはまだ訊きたい事がある。
極秘情報を知っているとなると、他にもバショウのハッキングの助力となるような情報を持っているかもしれない。
此処で殺気を振り撒いてシルバーの口を無理矢理割らせ、記憶を削除してしまう事も出来る。
だが、そうなるとポケモンに対するシルバーの態度は変えられない。
小夜の記憶を削除した後もシルバーの態度が改良されている為には、如何すればいいだろうか。

シルバーはずっと黙っている小夜を見つめていた。
目の前にいるこの少女は、外見は人間で中身はポケモン。
何も知らない人間が聴くと信じられないだろう。
だが小夜の能力を垣間見ているシルバーは、信じるのは容易かった。

「先程の話は図星という事だな。」

『そうなるね。』

迷いもなく回答した小夜に、シルバーは驚いたように目を見開いた。
すぐに一転し、口角を怪しく上げた。

「フン、弱みを握らせて貰ったようだな。」

『そんな事はないよ。』

小夜は平常心を取り戻すと、ふわりと微笑んだ。
シルバーは思い切り怯んだ。
なんて愛らしく笑うのだろうか。
魅了されたのを認めるしかなかったが、平静を装って睨みを利かせた。

『私は相手の記憶を削除出来る。

貴方から私の記憶を無くすなんて簡単なの。』

「チッ。」

『今の話、もし誰かに話したら如何なるか分かる?』

「!」

シルバーは深夜のあの殺気を嫌でも思い出し、身体が凍りついた。
普段なら殴りかかっているような場面だが、あの殺気の恐怖は身体に染み付いている。

『此処でまた逢えたのも何かの縁。

旅の途中までお供させて貰うね。』

「…………は?」

シルバーの脳内が数秒間完全にショートした。
我に返ると、小夜を素早く非難した。

「勝手に決めんじゃねぇよ!

誰がてめぇなんかと!」

『今から警察に行って、貴方の悪事をばらしてしまってもいいけど。』

「…っ。」

この女、痛い処を突いてきやがる。

シルバーは唇を噛んだ。
ポケモン泥棒であるという弱みを握られているのは此方だ。
小夜の紫水晶のような瞳の奥には、頑固たる意志がある。
悔しいが、此処は従うしかない。

「取引だ。

警察には言わないと約束しろ。」

『分かった。』

再度綺麗に微笑む小夜に、シルバーは思わず頬を染めた。
気付かれないように急いで後方を向き、ポケットに両手を突っ込んだ。

『深夜一時、先程の廊下で落ち合いましょう。』

「チッ、分かったよ。」

シルバーはそそくさと去ってしまおうと思ったが、小夜が駆け寄って隣に並んできた。
フンとぶっきらぼうに言って照れ隠しをするシルバーは、小夜よりも若干身長が高い。
小夜は微笑みながら、シルバーと並んで歩いた。



2013.2.1




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