取引

太陽が顔を出したばかりでまだ薄暗いヨシノシティは、街に誰も人の姿がなく閑散としていた。
小夜は三匹をモンスターボールの中へ入れると、ポケモンセンターへと足を踏み入れた。
初めてのポケモンセンターだ。
何だかドキドキする。
この時間帯は流石のジョーイさんも勤務時間外で、早朝勤務担当であるラッキーがフロントで出迎えてくれた。
ラッキーは赤い十字架が刺繍されている小さなナースキャップを被っており、おはようございますと声を掛けてきた。

『回復をお願いします。』

ラッキーは小夜が差し出したモンスターボール三つをにこやかに受け取ると、体力回復専用の機械の上に乗せた。
ポケモントレーナーなら誰しもが親しみ馴れている回復音がすると、ラッキーはモンスターボールを小夜へ丁寧に返した。
そして、お泊りになられますか?と書かれたボードを手に持った。
人間はポケモンの言葉が分からない為、ボードによる最小限の会話になっていた。
ポケモンと会話が可能な小夜はボードを読む振りをした。

『お願いします。』

ポケモントレーナーなら無料でサービスを受けられるポケモンセンターには、小夜も脱帽だった。
ラッキーは部屋番号の記載されているシールが貼られたルームキーを一つ取り出して小夜に渡し、ごゆっくりと笑顔で言った。
小夜も笑顔でありがとうと感謝の言葉を述べると、指定された部屋へと向かった。
広く明るい廊下を進み、ノブにルームキーを差し込んで右に回して扉を開ける。

『わあ、結構広い!』

ポケモンも一緒に寛げるようになっているポケモンセンターは、各一室が広く設計されており、一人部屋でも充分な広さがあった。
ベッド、クローゼット、鏡付きドレッサー、冷蔵庫、そしてトイレとお風呂もセパレートで完璧に設備されている。
小夜は重たいリュックを机の上に置き、腰の小型バッグからモンスターボール三つを取り出した。

『皆出ておいで!』

回復させたばかりのボールを放つと、三匹は機嫌良く鳴きながらその場に姿を現した。
エーフィたちにも初めてのポケモンセンターなのだ。
小夜はリュックを開け、一着分の服を取り出した。

『エーフィ、早速お風呂にでも入ろうか。』

“俺も一緒に!”

ふざけてそう言うボーマンダをエーフィは長い尾で軽く叩き、小夜の懐へ飛び込んだ。
冗談なのに、とボーマンダは拗ねた。

『ボーマンダはポケモンセンターのプールに行った時ね。

ヒノアラシは水が苦手だから、後で熱い蒸しタオルで拭いてあげるから。』

“やった!”

炎タイプなら熱湯風呂で入浴可能なのではないかと思うが、熱湯でも水は水だ。
ヒノアラシは苦手なのだ。
ボーマンダは身体が大きい為、先ず洗面所に入れない。
エーフィは拗ねているボーマンダとわくわくしているヒノアラシを横目に、満面の笑みを浮かべて言った。

“男性諸君、覗いちゃ駄目だからね!”

『二匹共、寝ててもいいからね。』

風呂場の扉をばたんと閉め、その場にはボーマンダとヒノアラシが残った。
寝ようかと提案するボーマンダにヒノアラシは賛成した。
部屋の床はカーペット状だが少し硬く、寝辛いだろうと思ったヒノアラシは辺りを見渡した。
するとベッドの下にポケモン用のふわふわしたカーペットを発見し、引っ張り出そうと口で噛むが、身体が小さなヒノアラシには無理だった。

“俺がやるよ。”

ボーマンダは口でカーペットを噛むと、簡単に引っ張り出してみせた。
それを見たヒノアラシは意気消沈しながら言った。

“僕も早く進化して大きくなって、色々な事が出来るようになりたい。”

カーペットを敷き終わったボーマンダは長い首をヒノアラシの方へ向け、優しく首根っこを咥えてカーペットに乗せてやった。
ポケモン用のカーペットは低反発で心地良い。

“すぐに成長出来るよ、エーフィはスパルタさ。”

ボーマンダはヒノアラシに寄り添うように隣に座って言った。
昨日の昼、ヒノアラシがエーフィに訓練して貰った時は、ひたすらエーフィに攻撃して結界に防がれる有様だった。
エーフィは物理攻撃も特殊攻撃も全て防御してしまう特殊な結界能力の持ち主だ。
その能力を見たボーマンダは、小夜の能力が何かしら影響を与えているのかもしれないと考えていた。
エーフィの強靭な防御力を利用して攻撃の練習を重ねるのが、昨日課されたヒノアラシの訓練だった。

“僕、頑張るよ。”

そう言ったヒノアラシに、ボーマンダは笑顔で頷いた。
ヒノアラシは最終進化形であるバクフーンになる日を夢見ながら、そっと目を閉じた。
ヒノアラシが眠ったのを確認してから、ボーマンダも今夜控えている空の旅の体力温存にと睡眠を試みた。




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