取引-2

小夜とエーフィがお風呂場から出ると、気持ち良さそうに眠る二匹が目に入った。
エーフィはベッドまでそっと移動して其処に飛び乗り、欠伸を一つ。
カーペットではなく、小夜のベッドで寝る準備に入った。
小夜は念力でドライヤーを消音にすると、髪を乾かし始めた。
手入れせずとも全く傷まない髪を見ると、やはり自分は人間ではないとドライヤーの度に実感する。
丹念に髪を乾かして水気が完全になくなると、ドライヤーを元あった場所へと戻して洗面所から出た。
静かに冷蔵庫を開けると、ペットボトルの飲料水とビンの牛乳が冷やしてあった。
ペットボトルは今後旅に使えそうだし、ビンの牛乳は後で三匹に与えたい。
確か、廊下に自販機があった筈だ。
ドアノブをゆっくり回して廊下へ出た瞬間、一つの気配によって空気が変わった。
一度だけ感じたことのあるこの気配の方へと視線を送ると、赤髪の少年が広い廊下を此方に向かって歩いていた。
近くにいるとは気配で感じていたが、まさか此処ですれ違うとは思わなかった。

『……。』

間違いなく昨日の少年、シルバーだ。
月明かりと炎の赤い光でしか小夜を見ていないシルバーは、目の前にいるのが深夜遭遇したあの小夜だと気付いていない。
シルバーは小夜に目もくれず、その横を通り過ぎようとした。
だが小夜の隣に差し掛かった時。
深夜体験したばかりのあの冷酷な殺気を、ほんの一瞬だけ感じた。
反射的に目を見開いて立ち止まった。

「?!」

即座にシルバーが振り向いた時には、小夜はシルバーとは逆の方向へと歩き始めていた。

「お前!」

背を向けているあの少女は、深夜に突如現れたあの少女と髪の長さが大体同じだ。
それに先程の凍りつくような殺気は間違いない。

「小夜だな。」

名前を口にされるとは思っていなかった小夜は立ち止まり、ゆっくりと振り返った。

「!」

シルバーは時が止まった気がした。
その姿に一瞬で魅了されてしまったのだ。
美しい紫の髪、同じ色の透き通った瞳、恐ろしい程に整った顔立ち。
この少女が本当にあの殺気を放ったのだろうか。
だがこの少女は何か驚異的な能力を隠している。
シルバーの直感がそう自分に語り掛けた。

「話がある。」

『嫌。』

「…な!」

簡単に拒否されてしまい、シルバーは呆気に取られた。

『その二ドラン♂を大切に育てると誓うのなら、話してあげてもいいけど。』

「!」

追い打ちを掛けるような小夜の台詞。
シルバーは小夜が立ち去った後、森で二ドラン♂を捕まえていた。
ポケモンを捕獲した場面を直接見られていないにも関わらず、何故小夜はモンスターボールの中のポケモンが分かるのだろうか。
やはり間違いなく、この少女は普通の人間ではない。

「兎に角、来い。」

シルバーは小夜の手首を粗野に掴むと、強引に引いた。
小夜は端的に尋ねた。

『誓うの?』

「分かった誓う。」

シルバーはこの際適当に返事をした。
あの殺気を向けられるのはもう勘弁なのだ。
シルバーはポケモンセンターの外に設置されているプールの前まで小夜を引っ張ると、周辺に人の姿がない事を確認してから立ち止まった。
プールに太陽の光が反射して、きらきら輝いていた。

『デートみたいね。』

「殴るぞ。」

シルバーは荒々しく小夜の手首を離し、小夜をきつく睨んだ。
その目に怯む様子もなく、無表情の小夜は紫の瞳でシルバーを真っ直ぐに見つめた。

「お前、何者だ。」

『何者でもないよ。』

「ポケモンと会話していたな。」

『きっと気のせい。』

「火炎放射を防御したな。」

『きっと見間違い。』

「モンスターボールを見ただけで何故中にいるポケモンが分かる?」

『勘。』

「あの殺気は普通の人間が放てるような殺気じゃなかった。」

『何の事?』

「てめぇ……人の質問に真面目に答えろ。」

マイペースな小夜に苛立ちを覚えたシルバーは舌打ちをした。
一方の小夜は如何説明するべきか悩んでいた。
正体や能力を自分の口から明かすつもりは微塵もない。
此処で記憶を削除してしまってもいいが、そうなるとあの殺気までもが記憶から削除されてしまい、ポケモンに対するシルバーのあの態度は改良されないだろう。
何の為に脅したのか、それは小夜の能力を外部に漏洩させないようにするだけでなく、ポケモンに対する接し方を変えようとして欲しかったからだ。
さて、如何するか。




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