温もり-2

シルバーは目の前のモンスターボールを手に取り、冷や汗を掻いた。
一体どのようなポケモンを捕まえてしまったのだろうか。

「何のポケモンだった?」

『出してみたら?』

「そうする。」

シルバーが躊躇いがちにそのボールを放つと、中から悪と氷タイプのポケモンが姿を現した。

「お前は、ニューラ?」

踏み潰されたせいでまだ目を回しているのは雄のニューラだ。
シルバーののしかかりは意外にもダメージが大きかったようだ。

『いいんじゃない?』

「…そういう事にしておく。」

シルバーは再度ニューラをボールへと戻した。
まさか自分ののしかかりで偶然にもポケモンを捕まえてしまうとは。
半ば呆れながら立ち上がり、そのボールを腰のベルトへ装着した。
もし小夜と再戦する時の対戦相手がボーマンダならば、効果が抜群の氷タイプのニューラを使用すればいい。
小夜との再戦を目論むシルバーは密かにそう思った。
そして小夜の様子を渋々覗うと、小夜は瞳に涙を溜めたまま呆れた表情をしていた。

『もう…馬鹿。』

「馬鹿に言われたくないな。」

シルバーは脅かさないように一歩ずつ小夜へと近付く。

「逃げないのかよ。」

『逃げて欲しい?』

「フン。」

小夜に片腕を伸ばして小さな頭の裏に手を回すと、自分の肩へ緩く引き寄せた。
小夜の髪からは優しい香りがした。

『ツンデレ。』

「煩い。」

シルバーは小夜の頭をぽんぽんと優しく叩くと、すぐに小夜の身体を離した。

「行くぜ。」

シルバーは目を逸らしながら小夜の手を握った。
それに最初は驚いた小夜だが、すぐにその手を握り返した。

『ほら、バクフーンはこっち!』

「!」

小夜は反対の手をバクフーンに差し出した。
バクフーンの存在を忘れていたシルバーは一気に顔が火照った。
成り行きを静かに見守っていたバクフーンはシルバーの顔をにやにやしながら見ると、小夜の手を取った。

「これじゃあ遠足じゃねぇかよ。」

シルバーとバクフーンの手を握って前へ進む小夜は、先程の涙が嘘のように幸せそうな微笑みを見せた。
たとえ小夜がシルバーに対して恋愛感情がなくとも、シルバーはこうしていられるだけで嬉しかった。




『くしゅん。』

その後何事もなく手を繋いで歩いていると、小夜が可愛らしいくしゃみを一つ零した。
氷点下の空間は炎タイプのバクフーンにとっては何ともないが、二人には堪えるものがある。

「流石に冷えるな。」

『そうね。』

でこぼこな氷の道を滑らないように慎重に進んでいると、行き止まりに差し掛かった。
氷に覆われた巨大な岩が複数集まり、目の前に立ちはだかる。

「お前でも道を間違えるのか。」

『間違えてないよ。』

小夜はシルバーとバクフーンの手を離したかと思うと、行き止まりに向かって一気に走り出した。

「おい、何をするんだ!」

小夜の後を追おうとしたシルバーの前に、バクフーンが背を向けたまま立ち塞がった。
小夜は拳を振り上げ、巨大な氷の岩に躊躇いなく叩き込んだ。


―――ドゴォ!!!


「っ?!」

岩が粉砕して粉々になって飛び散ったが、バクフーンが火炎放射で岩を溶かしてシルバーを防御した。

「悪い。」

バクフーンに対して素直に礼を言うと、バクフーンは無垢な笑顔を見せて頷いた。
岩に拳を入れた本人は両手をぱんぱんと掃った。
その前には先程まではなかった道が出来ている。

『さあ、行こう。』

「あ…ああ。」

小夜は岩を軽々と跨いで先に進んだ。
バクフーンの隣で唖然としていたシルバーはそっと呟いた。

「殺気とは違う恐怖を感じたぜ。」

運動神経が良いとは耳にしていたが、小夜の怪力が初見であったバクフーンも冷や汗を掻きながら頷いた。
小夜と体力勝負をするのは絶対にやめよう。
取っ組み合いをしても勝率は零だ。
シルバーはそう肝に銘じた。

『ねぇ、休憩出来そうな場所があったよー!』

数m先で小夜が手を振っている。

「今行く。」

シルバーはバクフーンと共に岩を跨ぎ、小夜の元へ急ぐのだった。




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