戦闘-3

私は半ば衝動的に駆け出した。
闘鬼神を花怜に叩き込むように振り下げると、花怜はそれを蒼色の結界で防御した。
私が一旦身を引くと、次に花怜が駆け出した。
花怜に剣先を向けるが、犬夜叉を襲った剣圧は通じなかった。
振り下げられた霊刀を闘鬼神で受けると、剣の妖気が浄化されてゆく。

「流石だと言ってやろう。」

花怜は口を開かず、無表情だった。
何を考えているのか、微塵も読み取れない。
私が霊刀を弾き返すと、剣と刀のぶつかり合いが始まった。
こうして刀を交えていると、花怜が人間ではないと強く実感する。
勝敗が決まる様子はなく、私たちは一度距離を取った。
刀々斎が吹き出した炎は既に燃え尽き、草の焦げた匂いが充満している。
私たちは無言で見つめ合っていたが、花怜が呟くように言った。

『殺生丸さま。』

待ち焦がれていた声で、私の名を呼んだ。
私が目を細めた時、花怜の様子が変わった。
花怜から緩やかな風圧が放たれたかと思うと、霊気が消え、入れ替わるようにして妖気が姿を現した。
花怜の瞳の色が透明感のある蒼色に変化し、霊刀は同じ蒼色の妖気を纏う妖刀へと変化した。
花怜の身体から溢れ出る妖気は、花怜が完全な妖怪であるという証拠だった。
初めて目にした、花怜の本来の姿。
花怜の妖気は妖の気であるにも関わらず、何故か清らかで美しい。

「この私に本気で歯向かうか。」

花怜は何も答えずに、此方に向かって素早く駆け出した。
お前が望むのなら、私はそれに応えよう。
私も地を蹴り、無表情の花怜に向かって駆け出した。
しかし、花怜は私から視線を外さないまま、妖刀を投げ捨てた。

「…!」

私は目を見開き、戸惑いを覚えた。
花怜は妖刀を捨てたにも関わらず、此方に向かって来る。
躊躇している時間はなかった。
闘鬼神を放り捨てた次の瞬間、花怜がぶつかるように抱き着いて来た。
それを反射的に受け止め、強く抱き締め返した。

『……殺生丸さま。』

私の胸に顔を埋める花怜から、柔らかな匂いがする。

「…何のつもりだ。」
『足止めです。』
「これが足止めだと申すか。」
『はい。』

左腕がないのが非常にもどかしかった。
右腕だけの抱擁では物足りない。

『妖怪の私はおかしいでしょうか。』
「いいや。」
『受け入れてくれますか?』
「受け入れぬと思うか。」

変わったのは瞳の色と妖気、その程度だ。
花怜は顔を上げた。
透明感のある蒼色の瞳に、私が映っている。

『お手合わせ、ありがとうございました。』
「満足したか。」
『とても。』

花怜の頬に手を滑らせれば、花怜は微笑みながら少しばかり俯いた。
その顎をそっと持ち上げると、きめの細かい頬が紅く染まった。
私が顔を寄せようとした時――

「殺生丸さまー!」

阿吽から降りた邪見が走って来た。
途端に花怜は我に返ったように私から離れようとしたが、私がその手を掴んで引き留めた。
場の雰囲気に相応しくない邪見の声が聞こえた。

「待ちくたびれまし――ありゃ?」

二人で邪魔者を見つめた。
私は時折、無性に邪見を殴りたくなる。



2018.5.7




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