生き残りの男

雅の一族は生き残りが非常に少ない。
それが何人なのか、雅ですら完全に把握出来ていない。

吹雪の中で空の旅を続けていた雅とデイダラは、密林に隠れるようにして存在する一軒の平屋の前に降り立った。
デイダラは黒装束についた雪を手で払いながら周囲を見渡した。
他国から完全に独立しているこんな辺鄙な場所に、昔ながらの藁屋根の平屋があるとは。
敷地面積の広い平屋は随分と古く、吹雪で木材が飛んでいきそうだ。

「あんなに吹雪が酷かったってのに、此処だけ妙だな。
もしかして、雅の一族の能力か?」
「そうですよ、目眩しです」
「なるほど」

平家を包囲するように吹雪が酷いというのに、広々とした畑には様々な野菜が実をつけている。
綺麗な水を汲める井戸もある。
明らかに、吹雪が畑や平屋を避けているのだ。
すると、玄関の引き戸が軋みながら開いた。
現れたのは、肌が白い年配の男だった。
上下共に真っ白な袴に、短い銀髪をしている。

「お久し振りです、叔父上様」
「生きていたか、雅」

雅は丁寧に頭を下げた。
デイダラは白い男をじっと見た。
どうやら、この厳格そうな男が雅の一族の生き残りで間違いなさそうだ。
雅の一族は容姿端麗として有名であり、この男もまさにそうだった。
雅は叔父上≠ニ呼んだが、雅の親戚は全員亡くなっている。
つまり、叔父のように慕っているのだろう。
白い男は冷静沈着な声色で訊ねた。

「その若者は?」
「私の恋人です」
「名は?」
「オイラはデイダラだ、うん」

白い男はデイダラを髷からつま先まで観察した。
デイダラは不快に思ったが、安易に無礼な真似は出来ない。
雅の一族の生き残りとなれば、相当な手練れの筈だ。
それに雅の目が節穴だとは思われたくない。
白い男は一貫して無表情のままだ。

「お前が此処に男を連れてきた事は一度もなかったが、信頼出来る忍なのだな?」
「はい、間違いありません」

雅は隣のデイダラを見上げ、柔らかく微笑んだ。
癒されたデイダラは雅をむぎゅっと抱き締めたくなったが、とりあえず我慢だ。
男はデイダラを見つめている雅に訊ねた。

「それで土産は?」
「米二俵にお酒でいかがでしょう?」
「うむ、宜しい宜しい」

男はやっと笑みを浮かべた。
食べ物に釣られた男に、デイダラは呆気に取られた。

「来たまえ。
空き部屋はお主の為に残してある」
「感謝致します」

二人は男に続いて藁屋根の平屋に入り、古い廊下を歩いた。
案内されたのは、広々とした畳の部屋だった。
平屋の外見よりも古い印象は受けないが、何の置物もない殺風景な部屋だった。

「布団やテーブルは押し入れに入っている。
自由に使いなさい」
「ありがとうございます」

デイダラが押し入れを開けると、確かに敷き布団や折り畳みのテーブルがあった。
他にも電気の代わりとなる蝋燭や、引き出しには浴衣や甚平などの衣類があった。
この屋敷には薪火で焚く風呂や井戸水もあり、寝泊まりには不自由しなさそうだった。





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