待ち侘びた再会

雪女との戦闘後、デイダラは倒れていたのをサソリに発見された。
あの冷んやりしたチャクラで医療忍術を使われたとはいえ、致命傷を治療されただけだ。
動けるようになるまでに一週間を要した。
待たされるのが嫌いなサソリから、延々と小言を聞かされる羽目となった。
サソリのびっくり人形劇の必須材料である人間集めを手伝わされ、何かと扱き使われる日々が続いた。

毎日、あの女の事を考えた。
あの芸術的な顔を見て以来、他のどんな女でさえも不細工に見えて仕方がないという後遺症が残った。
以前から飛段に連れられて訪れていた遊廓街にも、一切顔を出さなくなった。
雪女に出逢う前のデイダラは、遊廓街に行っても遊廓の中には立ち入らない性分だった。
遊廓に入ってしまうと暁からの貴重な小遣いが沢山飛んでしまうから、遊廓街を歩いている娼婦を適当に捕まえ、強引に喰っていた。
そのデイダラが、女を抱けなくなったのだ。

いつの日か、絶対にこの手であの女の息の根を止めてやる。
「あの雪女を傀儡にしたい」とサソリに言わしめた綺麗な顔を、粉々に爆破してやる。
そう決意してから、既に二年が経過していた。
任務の合間に雪女を探しても見つからなかった。

「思い出すだけで苛々するぜ…うん」

鳥型粘土の背に乗るデイダラは、真昼の広大な森の上空を移動しながら呟いた。
大きな鳥型粘土の口には、既に生き絶えた男の忍が咥えられている。
つい先程、角都に依頼されていた賞金首を狩ったばかりだ。
デイダラの後ろに乗るヒルコのサソリは、デイダラの独り言を無視した。
彼が苛々すると言えば、大体は例のあの件だからだ。
鳥型粘土は森のとある地点で高度を下げ、着地した。

「デイダラ、サソリ!
遅えっつーんだよ!」

其処で待っていた飛段の大声が耳障りで、デイダラは余計に苛々した。
サソリよりも先に鳥型粘土の背から降り、賞金首をその口から吐かせた。
飛段と共に待っていた角都が、その賞金首の顔を確認した。

「間違いない」
「なら、オイラたちは行くぜ」

次の金儲け話を聞くのは御免だ。
鳥型粘土の背に跳び乗ろうとしていたデイダラだが、突如歩いて現れた無地の黒衣の人物に目を見開いた。
黒衣のフードを目深に被り、その顔は見えない。
懐かしく感じるその姿が、嫌でもあの日を思い出させた。
角都は取り乱す様子もなく、近寄ってきたその人物に言った。

「来たか、雅」

雅……だと?

デイダラは湧き上がる殺意を隠せなかった。
サソリもヒルコ内で警戒心を強めた。
デイダラを半殺しにした女であり、超高額の賞金首だ。
そんじょ其処らの忍とは格が違う筈だ。
角都から雅と呼ばれた女はフードを脱ぎ、その顔を露わにした。
デイダラとサソリを気にする様子はなく、角都と飛段に丁寧に頭を下げた。

「お待たせしました、角都さん、飛段さん」

その横顔は間違いなく、あの雪女だった。
当時よりも大人びたその顔は整っていて、やはり美しい。
慣れた様子で角都に巻物を二本渡し、角都はメモらしき紙切れを渡した。

「約束通り、二人分です」
「こちらも有力な情報が入った」

すると、飛段が雅に颯爽と近寄った。
まさにメロメロといった顔をしている。

「雅ちゃーん!
一週間振りだな!」
「飛段さん、こんにちは」

飛段が雅を抱き締めようとすると、すいっと避けられた。
デイダラは現状が理解出来なかった。
何故、暗殺対象だった雪女が不死コンビと懇意に話しているのだろうか。

「オイ!説明しやがれ!」

デイダラが不満を露呈させると、雅が振り向いた。
改めて真正面から見た顔は、二年前よりもずっと美しくなっているではないか。
デイダラは思わず見惚れてしまった。
何故、この女はこんなにも芸術的な顔をしているのだろうか。
飛段は馴れ馴れしく雅の肩を抱き、デイダラに向かって鼻で笑った。

「てめーは知らなかったなァ?
雅ちゃんはてめーをフルボッコにした後から、暁に加担してるんだぜ?」
「加担だと…?
サソリの旦那は知ってたのか…?!」
「お前が知ったら面倒だと思ったからな」

あの日を人生の汚点としているデイダラに、サソリは雅の事を教える気には到底なれなかった。
面倒事に発展すると思ったからだ。
デイダラは悔しさで拳を握り、殺気を込めて雅を睨み続けた。
雅は飛段を振り払いもせずに、デイダラを真っ直ぐに見つめている。
一方、角都は飛段に言った。

「雅から離れろ、殺すぞ」
「だからそれをオレに言うかよ、角都」

飛段が雅をパッと離すと、雅は角都と向き合った。
飛段のスキンシップには慣れているらしいが、抱き締められるのだけは回避しているようだ。
角都は雅に訊ねた。

「この一週間で何人殺った?」
「お渡しした二人だけです」
「少ないな」
「賞金首を沢山換金したいんですね」
「信じられるのは――」
「お金だけ、でしょう?」

デイダラは目を見開いた。
笑顔の作り方を忘れたように冷たかった雪女が、角都に微笑んでいるではないか。
あの短気で金にしか興味のないような角都が、女と友好的な様子で会話しているのも物珍しい。
雅から離れろという台詞にも驚きだ。
すると、飛段が雅の両肩を掴んで自分に向けた。

「角都はほっといて、そろそろマジでオレと付き合わねーか?」
「お断りします」
「何でだよォ…。
オレはマジでお前に惚れてるってのに!」
「飛段さんは軽そうですから」

雅が困ったように笑うと、飛段はガックリと項垂れた。
デイダラは毒気を抜かれる感覚がした。
自分が二年間も恨み続けていた雪女が、こうやって見てみると、普通の女の子ではないか。
もしかすると、あの日デイダラに情けをかけたのは、侮辱したかった訳ではないのかもしれない。
見知らぬデイダラを半殺しにしてしまったのを申し訳なく思い、医療忍術を使ったのかもしれない。
デイダラはこの二年間の自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
雅が困り顔で言った。

「飛段さん、そろそろ離してください」
「付き合ってくれるまで離さねェ!」

飛段が雅を離そうとする様子はない。
デイダラは堪忍袋が爆発寸前になり、殺意全開の声を出した。

「……手を離せコノヤロー」

デイダラは雅の二の腕を掴み、飛段から強引に引き離した。
その予想外の行動に、雅と飛段が目を見開いた。
サソリもヒルコ内で目を細め、角都は怪訝そうに眉を潜めた。

「この女はオイラが殺す。
手ェ出すな、うん」

雅がデイダラに二の腕を掴まれたまま、間近にあるデイダラの顔を見上げた。
その視線に気付いたデイダラは、一気に赤面した。
見つめられながら小首を傾げられると、やはり雅から人間味を感じる。

「あの日、先に殺そうとしたのはあなたです」
「そ、そういう任務だったんだよ…うん」

雅は二の腕を掴んでくるデイダラの手の上に自分の手を添え、そっと離させた。
その手は冷たくて、雪女を思わせる。

「殺したいのなら、どうぞ」
「な…っ」
「出来るものなら」

デイダラの額に青筋が立った。
雅は無垢に微笑むと、皆に言った。

「それでは、私は失礼します」
「次は五日後だ」

雅はそう言った角都に頷き、名残惜しそうにする飛段に手を振った。
そしてサソリに頭を下げ、デイダラに微笑んだ。
デイダラはドキッとした。

何だよドキッ≠チて…!うん!

このまま別れてもいいのだろうか。
デイダラはその場から走り出した雅を無意識に追った。
走りながらサソリに振り向いた。

「旦那、少しだけ待たされてくれよ!うん!」
「チッ…何だってんだ」

飛段がデイダラを唖然としながら見送る隣で、角都は口布の下で隠れて溜息をついた。
雅は相変わらず人を惹き付ける才能があるようだ。



2018.4.7




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