交際宣言

「角都さん!」

隠れ家を後にした雅が芸術コンビと共に向かったのは、以前から角都と待ち合わせをしていた場所だった。
森の木々の合間を氷の白鳥に乗って移動していた雅は、其処から飛び降りた。
角都に駆け寄ると、飛びかかるように抱き着いた。
白鳥は太陽光を反射しながら氷の粒となり、幻想的に消えていった。
相変わらず優美なその姿に、角都は安堵した。
小さな背中をポンポンと撫でてやれば、雅が嬉しそうに顔を上げた。
二人は身体を離すと、雅が申し訳なさそうな表情で角都と向き合った。

「待ち合わせの約束を破ってしまって、ごめんなさい」
「何をしていた?」
「話せば長くなります」
「雅ちゃーん!!」

雅は横から飛段に抱き着かれそうになったが、すいっと避けた。
飛段は諦めずに、雅の両肩をガシッと掴んだ。
角都が静かな殺気を飛ばした。

「雅から離れろ、殺すぞ」
「だーから殺せるもんなら殺してみろってんだよ!」

普段通りのやり取りに微笑んだ雅だが、また別の声が聞こえた。

「オイラの雅に触るんじゃねえ!」
「あァ?」

鳥型粘土に乗ったデイダラとサソリが遅れて登場した。
雅の移動スピードが速く、追いつくのに時間がかかった。
重厚なヒルコのサソリを連れていると、デイダラの鳥型粘土の速度にも限界がある。

「誰がてめーの雅ちゃんだァ?」
「そのままの意味だ!うん!」

サソリはデイダラと飛段の睨み合いにうんざりし、深く溜息をついた。
飛段からさり気なく離れた雅は、サソリに苦笑してみせた。
角都は睨み合う二人などそっちのけで、雅に訊ねた。

「この数日に何があったか説明しろ。
長くなっても構わん」
「はい」

雅は一通り全てを説明した。
親交のあった風遁使いの一族を救う為、彼らの目印を追って砂漠まで向かった事。
其処で伝説の三忍である大蛇丸と戦った事。
情に脆くなっていたのが原因で、一族を庇って負傷した事など。
暁の裏切り者である大蛇丸の名が出た瞬間、場が殺気立った。

「大蛇丸を退避まで追い込みましたが…殺し損ねました」

淡々と話した雅に、角都が静かに言った。

「お前の実力なら、大人数を守りながらでも大蛇丸から逃げられた筈だ」

それはデイダラを始め、サソリと飛段も思った事だった。
角都は遠い目をする雅に眉を潜めた。

「長老の生首を見て動揺したか」
「…」
「今後は気を引き締めろ、死ぬぞ」

雅は目をそっと閉じてから、ゆっくりと頷いた。
脳裏に滲み出る記憶は、幼い頃に一族の長老が首を跳ねられる光景。
それを振り払ってから、目を開けた。
角都と視線を合わせると、端的に訊ねられた。

「怪我は治ったのか」
「自分で治しました。
傷跡も残っていません」

角都は雅を失う事だけは避けたかった。
雅が毒刀で貫かれた際も恐怖を覚えた。
もっと厳しく警告しなければと思うのだが、雅を前にすると難しい。
二人の会話を黙って聞いていたサソリは、雅に毒突いた。

「だからお前は甘いって言っただろうが」
「分かっています」
「サソリの旦那、雅の気持ちも分かってやれよ、うん」
「お前は雅に甘いんだよ、この腰抜けが」

サソリの声は普段と変わらずゆっくりとした低音だが、威圧的だった。
何度目かの腰抜けという言葉に、デイダラは頬を引き攣らせた。
先程の空の旅の最中に、サソリと交わした会話を思い出す。

―――オイラの強靭な精神力もそろそろ限界だぜ…うん。
―――まだ喰ってねえのか。
―――簡単に喰える訳ねーだろ!
―――この腰抜けが。

雅に対しては腰抜けくらいが丁度いいと思っているデイダラだが、そう何度も腰抜けと言われるのは気分が良いものではない。
一方の雅は無表情で視線を下に落としている。
その様子を見たデイダラはさり気なく雅の背中に手を遣ると、サソリに言い返した。

「腰抜けって言うな!
オイラは雅を大事にしたいだけだ、うん!」

雅は視線を上げると、隣で焦っているデイダラに目を瞬かせた。
間近で見つめられたデイダラはドキッとした。

「な、何だよ」
「いえ…嬉しいなと思って」

白い頬を赤らめた雅は、照れ臭そうに微笑んだ。
デイダラは再びドキッを経験したが、別方向から二つの殺気を感じた。
角都と飛段の不死コンビだ。
デイダラに静かな殺気を放つ角都は、デイダラを睨んだまま言った。

「雅、説明しろ」
「お二人には何も話していませんでしたね」

デイダラは二人分の殺気をもろともせず、自慢げに口角を上げた。
不死コンビに見せつけるように、堂々と雅の肩を抱いた。

「オイラたちは付き合ってる、うん」

デイダラが鼻高々にそう言った。
飛段はその衝撃的事実に失神するかと思った。
まさか、そんな事実が存在していい筈がない。
恋い慕ってきた雅が誰か他の男のものになるなど、考えられない。

「あり得ねェ…!
オレは絶対に信じねーぞ…!」

嘆く飛段は失恋を認めようとしない。
更に別の問題を認めようとしないのが、もう一人。
角都がデイダラに敵意の視線を向けながら言った。

「俺はそんな奴との交際など許さんぞ」
「角都さんはきっと誰を紹介してもそう言うと思います」

雅は眉尻を下げながら微笑んだ。
角都の旦那は雅の保護者みたいだな、という台詞をデイダラは控えておいた。
飛段は雅に懸命に訴えかけた。

「前にも言っただろ?!
デイダラちゃんは遊廓街でウロウロしてる女誘って喰いまくってたような女たらしなんだぞ!
ピュアな一族出身の雅ちゃんには不釣り合い過ぎるぜ!」
「てめェそれ以上言ってみろ!
ぶっ殺すぞ!うん!」
「上等だァ!殺してみやがれ!」

デイダラと飛段の言い争いが始まった。
それを横目に、角都が雅に訊ねた。

「本当にデイダラに惚れているのか?」
「本当ですよ」

飛段にとって、とどめの一撃だった。



2018.5.31




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