救出の代償

雅は白鳥に似せた氷の鳥の背に乗り、焼け落ちた集落から砂漠へと移動した。
木の表面に付けられた風遁による痕跡が、雅をこの方向へと導いた。
長老やその一族全員は既に全員が殺されているかもしれない。
それでも、行かなければ。

到着したのは、砂漠の中に不自然に出来た砂の崖だった。
砂の壁に片手で触れると、あの一族のチャクラを僅かに感じた。

間違いない、此処だ。

雅は空いている手で印を結び、崖を部分的且つ急速に凍らせた。
凍らせた部分の造形が、己の身体の一部になったかのように把握出来る。
その過程で崖の中に空洞を見つけ出した。
雅の身体が氷となり、凍らせた砂の中に溶け込むように同化した。
凍らせた物質の中を移動可能な雅は、通路に繋がっている場所へと瞬間的に移動した。
砂の床に着地すると、其処に指で触れ、瞬く間に通路一面を凍らせた。
続けて地下に空間があるのを把握した雅は、最も近い階段を見つけて駆け下りた。

「雅…!」

長老の孫の声がした。
彼は雅と同い年の青年であり、優秀な忍でもある。
天井が凍っている地下には檻があり、一族が三十人程詰め込まれていた。
その中には女子供もいる。
全員が傷だらけで、忍服が出血で真っ赤に染まっている。
雅は檻に駆け寄り、鍵穴に指先から現れた氷を流し込んで解錠した。

「雅、聞いてくれ、お爺様が…」
「話している場合ではありません」

彼らが慌てて檻から出る間、雅は印を結んだ。
凍らせた天井に大きな亀裂を入れると、外の光が地下に差し込んだ。
砂漠の地の熱気が入り込むが、雅の氷は溶けない。

「行きましょう!」

雅が先頭に立ち、外へと続く亀裂の道をひと蹴りで登り、外へと出た。
しかし、其処には待っている人物がいた。
その人物は狼狽えもせずに言った。

「まさかあなたのような忍が私の前に現れるなんて…」

立ち止まった雅は目を見開いた。
蛇を彷彿とさせる中性的な男が手に持っているもの。
長老の生首だ。
白髪の長髪を掴まれ、男の手から無造作にぶら下がっている。
長老の孫は怒りを抑えられなかった。

「大蛇丸…!!」

長老の首を見た雅は愕然としたまま、何も言えなかった。
頭が真っ白になりそうな自分を、忍の本能が引き留めた。
一族を襲ったのは伝説の三忍の一人、大蛇丸だったのだ。
気味の悪い薄ら笑いを浮かべる大蛇丸は、長老の首を目の前に放り投げた。

「噂通りね、本当に美しい子だわ」

真っ直ぐに雅を見つめる大蛇丸は、舌舐めずりした。
まるで獲物を見つけた蛇のように。
雅は大蛇丸を睨み、冷静に言った。

「何故彼らを?」
「ちょっとした人体実験をしようと思ったのよ」

一族は怒りを露わにして、殺気がその場に充満した。
しかし、大蛇丸はその殺気など眼中にない様子だ。

「そういえば、雪女の血肉と骨が万病に効くと信じている国が貴女の一族を買ったそうね。
彼女らも解剖されたのかしらね、可哀想に…」

雅に怒りが込み上げた。
こんな奴に同情などされたくはない。

「私も前々からあなたの一族に興味があったのよ。
……あなたが欲しいわ、とっても」

凍り付いた砂の崖を背景に、雅は決意した。
大蛇丸は雅のターゲットではない。
ターゲット以外は殺さないというのは、雅が己に課した掟だ。
大蛇丸が初めての例外となるだろうか。
果たして自分はターゲット以外を殺せるのだろうか。
雅は短く吐息をついた後、淡々と言った。

「あなたを殺します」
「あら、出来るかしら?
その足手纏いたちを守りながら?」
「僕らは雅と共に戦う!」

長老の孫の声を合図に、一族が一斉に大蛇丸へと駆け出した。
その中にはまだ忍術に未熟な子供や、女もいる。
雅は咄嗟に印を結びながら考えた。
彼らを足手纏いと表現する大蛇丸に一理ある。
しかし長老を殺された彼らの気持ちを、苦しい程に理解出来る。
逃げろとは言えなかった。
情に脆いのは自分の弱点だ。




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