訪れた再会-2

雅の案内で一行が訪れたのは、何の変哲もない小さな丘だった。
周囲を高い木々に囲われ、岩肌の表面が蔓に覆われている。
雅はその蔓を手で退けると、氷のクナイを掌に造り出した。
雅がそれで左の掌を横に斬ると、鮮血が手首から肘にかけて伝った。
その出血量を見たデイダラが、雅の背後から口を挟んだ。

「おい、雅…」
「此処は私の一族の隠れ家でした。
一族の鮮血が一定量なければ開きません」

その場にいる風遁使いの二人も、雅がいなければ中に入れないのだ。
クナイを無音で蒸発させた雅は、出血している左の掌を岩肌に当て、鮮血を塗り込むようにして一つの岩を回した。
鮮血が波紋のように岩の表面に広がると、雅は手を離した。
すると、数ある岩が生きているかのように動き出し、擦り合いながらその位置を変えた。
岩が上下左右に退くと、背の高い入り口が現れた。
中は岩壁の通路になっていて、暗くてよく見えない。

「どうぞ」
「待て」

雅が一歩進もうとした時、デイダラに右手を取られた。
雅は振り向き、小首を傾げた。

「どうかしましたか?」
「先にそれを治せ」

デイダラの視線は雅の左手に向けられていた。
目を瞬かせた雅だが、デイダラの顔を見てみると、至って真剣だった。
心配されているのが分かると、デイダラに離された右手を左手に当て、医療忍術で治療した。

「うん、それでいい」

デイダラは雅が自分に傷を付けるのを見たくないし、その傷を残しているのを見るのも嫌だった。
きちんと治療した雅に満足すると、その隣に並んで一緒に中へと進んだ。
その後をサソリが続き、ヒルコを不思議そうに眺める忍二人が後に続いた。
入り口は再び動き出した岩によって封鎖された。
外の蔓も元に戻り、雅が擦り付けた血痕も蒸発するかのように消えた。
一行が薄暗い廊下の奥へと進むと、小さな照明に照らされた空間に辿り着いた。

「此処はリビングキッチンです。
この廊下から部屋が幾つか分岐しています。
自家発電で電気も通っていますし、水も川から引いています」

壁や床が岩である事や窓がない以外は、ごく普通の家と変わらないような空間だった。
ダイニングテーブルやテレビもあるし、ソファーや冷蔵庫もある。
雅はダイニングテーブルにバスケットを置き、キッチンの水道で左腕の血を洗い流した。
デイダラは温かみのある部屋を見渡した後、雅に訊ねた。

「それで?」
「何ですか?」
「この数日間は何してたんだ?うん?」

雅はハンドタオルで腕を拭くと、二人の風遁使いの忍の目を見た。
立ち尽くす二人は俯いたが、説明への否定は見せなかった。
雅がデイダラとサソリに説明を始めようとした時、廊下に隣接する部屋のドアが開いた。
忍服を着た一人の中年男性が、おずおずと顔を覗かせた。

「雅さん…お客様か?」
「はい、私の知り合いです。
皆さんはお休みになられてください。
夕食の時間になればお呼びします」
「…面目ない」

男は深々と頭を下げ、部屋に戻っていった。
デイダラにはその男が非常に憔悴しているように見えた。
部屋の中からまだ声がするし、他にも人がいるようだ。
雅はデイダラとサソリに言った。

「彼らの一族を三十人程匿っています」

彼らとの思い出を頭に思い描きながら、雅は順を追って説明を始めた。

「私の一族と彼らの一族とは長らく親交がありました。
特に一流の風遁使いだった長老様は、山の麓にある集落を私の隠れ家として提供してくださいました」

デイダラは雅の淡々とした台詞に違和感を覚えた。
目を伏せる雅は、デイダラと視線を合わせようとしない。

「昨日、私が彼らの集落を訪れた時、既に焼け落とされていました」

雅は黒衣の中から巻物を取り出し、それを見つめた。

「誰かに襲われると予期した長老様は、集落の地下空間にある部屋で私にメッセージを残していました。
存続をかけて戦う、と」

ですがと言った雅は、二人の忍の様子を窺った。
その内の一人が拳を強く握りながら説明した。

「集落を襲われた際、我々は全力で戦いました。
しかし相手があまりに強く…全員生け捕りにされてしまったんです」

忍は雅の知り合いだという二人に説明を始めた。
一族の長老はいずれこの集落を訪れるであろう雅に向けて、風遁で密かに目印を残した。
偶然にも、雅がそれを見つけたのは、一族の集落が焼け落とされた当日だった。
一族は全員が砂漠にある奇妙な崖の奥へと連行され、アジトらしき場所で地下の檻に閉じ込められた。
長老はその時、首を跳ねられた。
檻にいる一族全員に見せしめるかのように――

「雅さんは我々を助け出してくれました」

檻に閉じ込められていようと、雅は鍵穴に氷を入れて解錠出来た。
雅が口を開いた。

「ですが、私も簡単には彼らを連れ出せませんでした。
敵と戦ったんです」

その際、二人の犠牲者が出てしまった。
雅も敵も負傷し、極度のチャクラを消費した。
敵を退避まで追い込み、結果は相討ちといったところだ。
雅自身も療養が必要となり、生き残った一族を此処へ連れてきた。
雅は残されたチャクラを彼らの医療忍術に回した。
サソリが決定的な質問をした。

「それで、その敵ってのはどんな奴だったんだ?」
「デイダラもサソリさんもよく知っている忍です」
「誰だ、うん?」

雅はやっとデイダラの目を見た。

「大蛇丸です」

暁の裏切り者が関わっていた。



2018.5.13




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