雪女との出逢い

雪女≠ニいうと、国によって様々な伝説が残されている妖怪である。
何千年も生き続ける長寿であるとか、誰もを魅了する美貌を持つとか、吐息で人を凍らせて殺めてしまうとか。

「で、その雪女だとか呼ばれてる血継限界が何だって?うん?」

デイダラは不機嫌だった。
飛段と角都のゾンビコンビに呼び出されたかと思えば、暁の財布役である角都から金儲けの話を持ち出されたのだ。
山奥にある階段に腰を下ろすデイダラは、ヒルコに入ったサソリの隣で溜息を吐いた。
金儲けなど、芸術性の欠けらも感じない。
傀儡のメンテナンスをする方が何倍も魅力的だ。
不満げに立ち上がったデイダラを見下ろしている角都は、階段を数段降りながら抑揚のない声で言った。

「超高額の賞金首だ。
その女がビンゴブックに載っている賞金首を各地で狩っているという情報が入った。
お前とサソリで殺れ」

つまり、角都の金儲けに支障が出ているという訳だ。
デイダラは暁の黒装束を緩やかな風に揺らしながら、呆れた表情をした。

「何でオイラたちが…。
てめーらで片付ければいいだろーが」
「おやおやデイダラちゃん。
出来ねえってのかァ?」

角都の隣でデイダラを見下ろしていた飛段が、皮肉の口調で言った。
デイダラの苛立ちに拍車がかかる。

「金儲けは唆られねーな…うん」
「お前たちの小遣いが減るぞ。
デイダラ、良質な粘土が欲しいんじゃなかったのか?」

角都から図星を突かれ、デイダラは冷や汗をかいた。
それまで黙っていたサソリが角都に訊ねた。

「俺たちに雪女殺しを頼む理由は?」
「次にお前たちが任務で壊滅させる小国に、雪女の目撃情報があった」
「なるほど」

サソリは納得したが、一方のデイダラはそうではない。
しかし、一つ気になったデイダラが角都に訊ねた。

「なんで超が付く高額の賞金首なんだ?」
「顔を欲しがる人間が多い」
「それだけ別嬪だってのか?」

角都はビンゴブックのページをデイダラに向けた。
それを面倒臭そうに覗き見たデイダラは、次の瞬間には目を見開いた。
雪女の名の通り、肌が雪のように白い少女の写真。
驚く程に美しく端整な顔が芸術的だ。
デイダラは喰い入るように見つめていたが、我に返って言った。

「まだガキじゃねーか」
「お前よりも二つ年下だ。
名は雅」

つまり、十五歳だ。
丁度、デイダラが暁に入った年齢だ。
ビンゴブックの顔写真を見たデイダラは、すかさず突っ込みを入れた。

「おい、もっと若いだろ。
どっから見ても十五には見えねーぞ」
「これは里抜け前の写真だ。
五年前の写真になる」

これは雪女が十歳の時の写真だ。
里抜け以降、写真を撮られるような失態をしていないのだ。
角都は淡々と説明を続けた。

「霧隠れの里の抜け忍で、氷遁の血継限界を持っている」

この一族はその美しい風貌により、昔から誘拐や強姦などの性的被害を頻繁に受けてきた。
それ故に、純潔を大切にする一族として知られていた。
その独特のチャクラは低温で、癒しの能力を発揮するとの噂もある。
雪女の血肉や骨を煎じれば不治の病の治療薬になる、という伝説を信じる国もある。

悲劇は十年以上前。
霧隠れの里の上層部によって、一族の若い男女が国内外に高額で売り捌かれたのだ。
純潔を大切にするという肩書きに惹かれ、各国の名だたる大名などが次々と買い付けた。
しかし、身体を穢されるのを恐れた一族は抵抗し、次々と自害した。
売買されずに残った一族は里に反乱を起こしたが、その殆どが口止めとして抹殺された。
数少ない生き残りが、その女だ――

悲劇の一族の説明を聞き終えたデイダラは、どんどん興味が湧いてきた。
すると、飛段が哀しげに愚痴を零した。

「嗚呼、俺も雪女に逢いたかったなァ…。
すげェ別嬪なんだろうなァ…」
「お前には別の任務がある」
「うるせー角都!
分かってるっつーの!」

飛段は今にも角都に突っかかりそうな勢いだった。
女好きで遊廓にも顔を出す飛段なら、暗殺対象である雪女を殺さずに喰ってしまいそうだ。
密かにそう考えた角都の計らいで、飛段には他国の汚れ仕事が任務として舞い込んでいた。
角都はデイダラとサソリに補足した。

「死体は顔が分かるように保存しておけ。
換金所へ持っていく為だ」
「分かったよ、うん」

デイダラは粘土袋に片手を突っ込み、掌の口で粘土を喰った。
それを鳥型に形成すると、サソリと二人で移動出来る程の大きさに変化させた。
その芸術的造形に自己満足する。

「その雪女はオイラが殺る。
さっさと済ませようぜ、サソリの旦那」
「雪女に逢うのが楽しみなのは分かるが、準備は怠るなよ」
「な、楽しみなんかじゃねーよ!うん!」

デイダラはヒルコのサソリと共に鳥型粘土に跳び乗ると、持っていた笠を被った。
角都は最後に一つだけ忠告した。

「気を抜くな、死ぬぞ。」

デイダラは余裕の笑みを見せた。
角都と飛段に見送られながら、其処から飛び去った。
目指すは、雪女の目撃情報があった小国だ。





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