行ってらっしゃい

二人は夜まで甘く肌を重ねた後、くたくたの身体で露天風呂に直行した。
サソリの部屋で夕食にしたが、二十歳未満同士で酒は控えた。
深夜になると、再び情交に耽った。
暁からの任務の依頼は明日かもしれないし、明後日かもしれない。
なかなか逢えなくなるのが寂しくて、それを紛らわせる為にお互いを激しく求め合った。
そして、見送りの時間はやってきた。

「お気を付けて」
「雅もな」

翌日の真昼。
国の小高い門の前で、雅はデイダラとサソリの芸術コンビを見送りに出ていた。
二人と向き合う雅の顔は寂しげだった。
デイダラは雅の肩に手を置いた。

「ターゲットも残り四人だろ。
もう少しだな、うん」

その残り四人は雅の暗殺を聞き付けたのか、何処かに潜伏しているらしく、情報が極端に少ない。
見つけるのに時間がかかりそうだ。
ヒルコ内のサソリは雅に忠告した。

「お前の事だから心配無用だろうが、暗殺でも何でも準備は怠るなよ」
「気を付けます」

―――お前は死ぬな。

サソリの台詞が思い出された。
雅は穏やかに微笑んだ。

「サソリさん、この数日間は色々とありがとうございました」
「感謝されるような事は特に何もしてねえだろ」
「いいえ」

雅はサソリから色々な言葉を貰った。
任務では共に城に潜入し、ターゲットの暗殺を見守ってくれた。
自分の芸術についても熱心に語ってくれた。
サソリはぶっきらぼうながらも優しい人だ。

「それと、ずっと思っていたんですけど」
「何だ」

雅は膝に手を置いて身体を屈めると、ヒルコのサソリと視線の高さを合わせた。
この口元に武器が隠れていると思うと、何だか不思議だ。

「ヒルコさんより本体のサソリさんの方がかっこいいですよ?」
「……うるせえ」

それは本体の赤髪のサソリを褒めているのか、ヒルコを馬鹿にしているのか。
サソリは複雑な気持ちになったが、不思議と悪い気はしない。
雅はクスクスと笑うと、次にデイダラと向き合った。

「デイダラ」
「うん」
「ありがとう、楽しかったです」
「礼を言うのはオイラの方だ。
すげー充実してたぜ、色々とな」

雅は頬を赤らめ、色々と思い出してしまった。
二人で触れ合った時間を。

「何思い出してんだ?うん?」
「な、何でもないです…多分」
「多分かよ」

無邪気に笑ったデイダラは、雅の腕を掴み、その身体を引き寄せた。
あっという間に抱き締められた雅は、たちまち寂しさが込み上げた。

「デイダラ…」
「寂しいか?」

頷いた雅は、デイダラにしがみつくように抱き着いた。
寂しさが一気に込み上げ、涙が零れそうになる。
デイダラは雅の背中を優しく撫でた。

「オイラも寂しい。
けど、もう少しだろ」

残り四人。
始末すれば、二人は傍で共に生きていける。

「なるべく迅速に終わらせます」
「焦らず確実にな」
「必ず全員殺してみせます」
「待ってるぜ、うん」

サソリの視線を気にせず、デイダラは雅に口付けた。
目を閉じた雅はついに涙を零した。
デイダラを困らせてしまうと分かっているのに。
また逢えると信じているのに。

「泣くな、また逢えるだろ?」
「は…い…」

デイダラは何度も雅の涙を指で拭い、その目元に唇を落とした。
それが擽ったくて、雅は小さく笑った。
その笑顔を見たデイダラは少し安心した。
雅には笑顔が似合う。
芸術を感じさせてくれるその笑顔が、とても好きだ。
雅の身体を両腕で引き寄せ、その耳元で囁いた。

「雅…愛してるぞ」

サソリの目の前で、雅は真っ赤になった。
涙も引っ込み、幸福感と恥ずかしさが上回った。
デイダラの首元に両腕を回し、ぎゅっと抱き着きながら囁いた。

「私も…愛しています」

二人ははにかみながら見つめ合うと、もう一度唇を重ねた。

「行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」

名残を惜しみながら、二人は離れた。
サソリは早くしろと催促する訳でもなく、二人の様子をじっと観察していた。
雅は頬を赤らめながら、申し訳なさそうに言った。

「サソリさん、お待たせしました」
「目の前でイチャつきやがって」
「そう怒るなって、旦那」

デイダラはククッと笑った。
待たせるんじゃねえと文句の一言も口にしなかったサソリの旦那が、雅に毒気を抜かれている。
サソリは雅に背を向け、ヒルコを引きずって歩き始めた。

「じゃあな」
「お気を付けて」

雅はサソリに頭を下げた。
すると、デイダラが雅に何かを緩く投げた。
雅は宙で放物線を描いたそれを両手で受け取り、掌に乗せて確認した。
それは小さな鳥型粘土だった。
デイダラがいつも空の旅で乗っているあの鳥だ。

「持ってろよ、御守りだ」

心が温かくなった雅は柔らかく微笑んだ。

「ありがとう、デイダラ」
「またな」

デイダラは片手を軽く上げ、雅に背を向けた。
いつまでも見送ってくれる雅に、最後にもう一度だけ振り向いた。
小さくなった雅の姿に手を振り、前を向いた。

「サソリの旦那も雅にメロメロだな、うん」
「妙な事言うんじゃねえよ」
「何言ってんだよ。
旦那は随分と丸くなったぜ?」

何も否定しないサソリに、デイダラは角都化を垣間見た。
もう何ヶ月かすれば、サソリも角都のようになるかもしれない。
感情のない筈のサソリが、雅を溺愛するような日々が待っているのかもしれない。
サソリはデイダラが面白おかしそうに笑うのを無視し、雅に思いを馳せた。

絶対に死ぬな。
死んでも傀儡にしてやらねえからな。



2018.9.10




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