名残惜しい見送り

雅は昼食の場で寝惚け眼を擦った。
泣き腫らした目を氷で冷やしたが、良くならなかった。
結局、医療忍術を使うという落ちが待っていた。
酷く浮腫んだ顔を暁の皆に向けるのは申し訳ないと思ったからだ。

「…眠いです」
「…オイラも」

忍服に着替え済みの雅とデイダラは、隣同士でぼんやりとしながら、長テーブルで白ご飯を頬張っていた。
雅はデイダラとは逆側にいる角都の顔を見た。
角都は暁の黒装束を身に纏っている。

「角都さん、結局お酌しましたっけ?」
「いいや」
「ごめんなさい…」

記憶が曖昧な雅は、泣き疲れた後を上手く思い出せなかった。
角都がデイダラの元へ運んでくれたらしいのだが、思い出せない。

「今から酌をしても構わんが」
「いけませんよ。
私が部屋に戻った後、夜中に一人で飲んだんでしょう?」

あの老婆が雅に話したのだ。
今朝、角都と飛段の不死コンビが借りている部屋の片付けに入った時、一升瓶の中身が半分になっていたと。

「ご馳走様、うん、寝る」
「ちょっと、デイダラ」

デイダラは雅の肩に頭を預け、目を瞑った。
雅の低体温が心地良くて、眠りに誘われる。

「デイダラ、起きて。
部屋で寝てください」

雅はデイダラの顔を覗き込み、その頬をペチペチと軽く叩いた。
その振動さえ心地良く思ったデイダラは、夢見心地で言った。

「もっと叩いてくれ…うん」
「なら、角都さん」
「……うん?!」

デイダラがはっとした時には、角都の触手パンチがデイダラの額にぼこっと炸裂していた。
デイダラは呻き声を上げながら、背中から転がった。
潰れそうになった髷を支えながら、角都に文句を言った。

「痛えぞ旦那…!」
「雅から離れろ、殺すぞ」

雅はクスクスと笑うと、角都の湯呑みに緑茶を注いだ。
その様子を見ながら、角都は深夜のデイダラの台詞を思い出した。

―――そんなに雅にメロメロなら、もっとそれを全面的に出してだな…。

「角都さん?どうしました?」
「…!」

角都は遠い目をしていたのを雅に不思議に思われてしまった。

「もう少し茶葉を蒸らした方が良かったですか?」
「違う、何でもない」

雅は小首を傾げた。
角都の向かい側に座っていた飛段が青白い顔で言った。

「チクショー、二日酔いだぜ…」
「飲み過ぎですよ。
飛段さんはお酒が強くないんですから気を付けないと」
「雅が添い寝してくれたら治るんだけどよォ…」
「てめー爆破するぞ!うん!」

デイダラは雅の肩を引き寄せ、自分にくっ付けた。
飛段は膝立ちになって文句を言おうとしたが、二日酔いの吐き気で不発に終わった。
雅の向かい側に座っていた鬼鮫が、自然と口角を上げた。

「こんなに賑やかな昼食は久し振りですね、イタチさん」
「そうだな」

デイダラの向かい側に座るイタチは、雅の顔を密かに伺った。
泣き腫らした目が治っている。
大方、医療忍術を使ったのだろうと思った。

「サソリの旦那も飯食えたらいいのにな、うん」
「煩い」

デイダラは部屋の隅にいるサソリにククッと笑ってみせた。
食事が必要ないというのは寂しい事のように思うが、当の本人は全く気にしていないようだ。
デイダラは雅の肩を離し、箸を進めた。
相変わらず此処はサソリの借りている部屋だ。
雅は皆に訊ねた。

「皆さん、結局任務の方は?」
「私たちは食べ終わり次第、出発しますよ」

鬼鮫の台詞に、雅はイタチを見つめた。
次に逢えるのはいつになるのか、不安になる。
雅とイタチが無言で見つめ合っていると、飛段が角都に気怠そうに言った。

「オレたちも行くのか?」
「換金所へ行くと言った筈だ」
「ちぇ…」

雅が寂しげな目で角都を見ると、角都もその目を見つめ返した。
デイダラはマイペースに緑茶を啜った。

「オイラたちにはまだ何の連絡もねーな」
「リーダーも気を遣っているんでしょうね。
雅さんにはリーダーも世話になっていますから」

鬼鮫は焼き魚を口に入れた。
それを見た雅とデイダラが、共喰いだと密かに思ったのは内緒だ。
雅は切なげな目でデイダラを見た。

「今日は此処にいられそうですか?」
「多分な、うん」

デイダラとサソリは雅と共にこの宿に残り、他の四人はこの国を出るようだ。
賑やかな食事も、これが最後のようだ。
また皆で集まるのはなかなか難しいだろう。
これから暁は尾獣捕獲に動くのだから。
寂しさを感じた雅は少し俯きながら目を細め、デイダラの膝にそっと手を置いた。
デイダラはその手を握った。




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