対照的な二人

デイダラは雅を待ち惚けしている間に、敷き布団の上で呆気なく寝落ちてしまった。
掛け布団も着ずにうつ伏せになって眠っていると、忍の本能でふと何かの気配を察した。
音もなく身体を起こして片膝をついた時、ドアがカチャリと開いた。
角都の旦那かよ、ビビらせんじゃねーよ。
そう思ったのは一瞬だった。

「雅…?」

角都の腕には、眠っている雅が慎重に横抱きにされていた。
賞金首を片腕で乱雑に運ぶ姿からは想像もつかない扱い方だ。
背丈のある角都に横抱きにされているからか、雅が普段よりも華奢に見えた。
角都はデイダラに見向きもせず、眠っている雅を見ながら言った。

「泣き疲れたようだ」
「泣いたのか…」

角都は雅の腰を敷き布団に下ろした。
しかし雅が角都に縋り付き、その浴衣を握って離さない。
浅く息を吐いた角都は、雅を無理に離そうとはせず、自分も敷き布団に腰を下ろした。
その様子は、イタチの前で雅を痛い程に強く引き離そうとしたデイダラとは大違いだ。
デイダラは自分を情けなく思った。
角都の片腕に支えられながら眠る雅の頬には、涙の跡があった。
泣いた後でも芸術的な顔だ。

「綺麗な顔だな…うん」
「お前とは大違いだ」
「うるせーぞ旦那」

小声で話しながら、デイダラは妙な感覚がした。
暁の財布役で金にしか興味のなかったあの角都と、こうやって向き合いながら一人の女を心配している。
不思議な光景だ。
デイダラは自分の膝に片肘を置きながら、依然として小声で言った。

「なあ、旦那。
旦那はもっと雅に気持ちを伝えたらどうだい?」
「…いきなり何の話だ」
「雅はずっと孤独を感じて生きてたんだぞ」

誰にも気付かれないまま、一人で自害しようと思っていた程に。
デイダラは普段なら呆れたような口調で言う台詞を真剣に言った。

「そんなに雅にメロメロなら、もっとそれを全面的に出してだな」

デイダラは角都から睨まれたが、ちっとも臆さない。
それどころか、思い出したかのように言った。

「旦那はそんなキャラじゃねーか…」

これが角都と二人きりで話していたなら、触手パンチを顔面に喰らっていただろう。
だからこそ、今伝えているのだ。
黙っている角都に、デイダラは話を続けた。

「雅は自分の周りに好いてくれてる人間がいるってのに、孤独を感じてたんだぞ」

デイダラが思い出すだけでかなりの人数だ。
風遁使いの一族、雅が叔父上様と慕うあの男、此処の宿主の婆さん。
雅に惚れている飛段のヤロー。
雅を妹のように慕うイタチ。
そして、目の前にいる角都だ。

「雅が気付いてねえだけだ。
一族の恨みに負けてたんだ」

角都は雅の寝顔を見つめるデイダラを睨み続けていた。
知ったような口を叩くな、とは言えなかった。
デイダラの台詞は的を得ているし、恋人である雅をよく理解している。

「オイラは雅の孤独を埋める。
だから旦那はオイラと雅の交際を潔く認めるんだな、うん」

デイダラの口調は自信に溢れていた。
角都は雅を支えている片腕に力を込めた。

―――お前が大切だと言った筈だ。
―――言われていませんよ?
―――口に出してはいないが、そう伝えただろう。

様々な言葉で雅に気持ちを伝えるデイダラとは対照的に、角都は口下手で気持ちを表現するのが上手くない。
もっと早く、大切だと直接口にしていれば。
雅の孤独も和らいだのだろうか。
しかし、一つ気がかりな事がある。

「飛段はどうなんだ。
奴は全面的だったが」
「あのヤローは知らねーよ。
まあ、あいつは大袈裟過ぎて逆に気付かれなかったんだろーな、うん」

デイダラは嘲笑したが、失恋した飛段の心境を考えると安易に馬鹿には出来ない。
もし自分が飛段の立場で、雅に振られていたらと考えると、寒気がする。
しかし、現実はこうだ。

「雅の男にはオイラが適任だ」
「その自信は何処から来る?」
「うん?」

―――お前を愛してるぞ、うん。
―――私も、心から愛しています。

デイダラはにやけそうになった。
角都から改めて睨まれ、気を取り直した。

「とりあえず旦那、オイラは眠いぜ。
二人で雅を挟んで川の字で寝ねーか?」
「ふざけるな、殺すぞ」

デイダラがククッと喉で笑った。
角都はデイダラに触手パンチをお見舞いしたいのを我慢し、自分にしがみつく雅を見つめた。

「雅」

名前を呼んでみたものの、起きる様子はない。
デイダラは眉を潜め、角都にもう一度だけ訊ねた。

「川の字はどうだい?」
「殺すぞ」
「なら仕方ねーな」

デイダラは角都にしがみつく雅の肩を揺すった。

「雅、起きろ」
「……ん」

雅はそっと目を開けた。
寝起きの頭でぼんやりと視界を確認していると、デイダラと角都の顔があった。

「私…寝てた…?」
「雅が角都の旦那にしがみついて離れねーんだ、うん」
「嘘…ごめんなさい…」

泣き疲れたせいか、それとも寝起きのせいか、雅は頭が回らなかった。
角都の胸板に頬を擦り寄せ、その浴衣の襟をぎゅっと握った。
引き寄せてくれる腕に安堵し、また眠りに誘われる。
浴衣を握る手を角都の手に包まれ、離すように催促された。

「デイダラの所へ行け」
「…はい」

雅は名残惜しそうに角都から手を離し、角都に支えられながら上体を起こした。
目を閉じそうになっていると、デイダラに顔を覗き込まれた。

「角都の旦那に川の字を嫌がられたからな、オイラと寝るぞ」
「川の字…?」

雅は訳が分からないまま、デイダラの首元に両腕を回して抱き着いた。
角都の目の前で抱き着かれ、デイダラは驚いたと同時に赤面した。
優しく抱き締め返すと、雅が自然と微笑んだ。
角都は呆れたように息を吐き、雅の頭にポンと手を置いた。

「雅は受け取ったぜ、うん」
「さっさと寝ろ」
「分かったよ」

角都が立ち上がると、雅は顔を角都に向けた。

「角都さん…ごめんなさい。
ずっと締め上げていて…」

雅は寝惚けているようだ。
角都はほんの微かに笑うと、最後に言った。

「もう寝ろ」
「…はい」

雅は目を閉じ、デイダラに身体を預けた。
口角を上げるデイダラに見送られながら、角都は部屋を後にした。
雅を受け取った、と言ったデイダラの台詞が印象的だった。



2018.8.31




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